著述編

法難手記

人権蹂躪

自由民主々義とは、人権を尊重する事から始まるといふのは、今更言ふ必要のない程、明らかな話ではあるが、実際上それが仲々行はれてゐない事を、今度の事件によって、熟々思はれたのである。意外なのは役人が人民に対し、平気で行ふ人権蹂躪的態度である。何...
法難手記

当局に望む

以上は、詳細に述べた如く、慈悲も涙もない冷酷極まる取調べを受けた吾等として、熟々思はれる事は、どうしても、取調べの任にある人達には、宗教心の必要なる事である。言う迄もなく、被告を悔悟させるには、遮二無二責めるばかりでは効果はない。どうしても...
法難手記

帰宅後

茲で、帰宅後の事も一通りかかねばならないが、帰宅後某弁護士に面会、色々取調べの模様を話した処、其弁護士が言ふには『それは惜しい事をしましたね。被告には黙秘権があるんだから、記憶にない事は答弁しなくてもよかったので、黙ってゐてもそのために不利...
法難手記

上申書(金久平)

金久平私事、此度贈賄及び農地問題等で逮捕状により、静岡の獄舎に四十六日間勾留され、脅迫的拷問、怒号卑劣な罵声を以て、取調べを受けた当時の模様をかかせて頂き、社会の皆々様の御批判を仰ぐ次第であります。忘れもしません。昭和廿五年五月八日朝六時、...
法難手記

上申書(井上福夫)

井上福夫私事、此度起訴致されました、二件に関し、甚しい虚偽の供述を致し、御手数を掛けましたのは、洵に申訳なく、茲に其事実を申上げ御諒解を御願致し度、上申する次第であります。逮捕理由には、「昭和二十三年十二月、岡田茂吉名儀の財産参百万円を隠匿...
法難手記

カマを掛ける

取調べの場合、カマを掛けるという言葉は昔からよく言はれるが、今度の取調べに際し此カマを掛けられた事実は非常に多く、殆んど取調べの骨子となってゐたと言ってもいい。近来の取調べ方針は誘導訊問を最も嫌ってゐるやうだが、然し誘導訊問よりカマ掛け訊問...
法難手記

刑務所行き

その翌日例の如く調べ室に呼ばれた。私は交霊術などと言っても、警察官などに判る筈はないから、色々考えた末斯う言った。「実は昨夜絶体絶命の結果一心に神に祈った、すると御利益があって記憶がハッキリ浮び出し、判ったからお答えをする」と言ってスラスラ...
法難手記

頭脳の拷問

茲で特筆すべき事が起った。それはM氏とK氏との両氏から調べられた時の事である。此時は主にM氏が訊問に当ったが、昭和二十三年十一月八日に始まった脱税問題に対する運動費の件が主であった。私は全然記憶にないから答える事が出来ないと言うと、M氏はど...
法難手記

記憶の捏造

之を聞かされる毎に私は気が気じゃない。どうしたらいいのだらう。全然ない記憶を呼び起せと言っても無理だし、呼び起さなければ幾日でも留置されるとしたら、何とかしなければならない。斯んな苦しみをする位なら以前に何か少し位悪い事をしておけばよかった...
法難手記

取調べの模様 最初の取調べ

警察に勾留された第一日目は、簡単な取調べで終ったが、第二日目であった。朝飯を済ますや直ちに二階の調室に連れられた。K刑事部長、M刑事部長の二人の外に、S警部といふ人が応援として、静岡市国警本部から此朝出張して来たと言はれた。茲で右の三人に就...