法難手記 結論 抑々、今度の事件に対し、冷静に検討して観る時、少なくとも公平に行はれた取調べとは思えない。それに就ての、二三の疑問符を抛げてみよう。先づ第一容疑の性格に対し、取調べの峻厳な事と、其日数が多過ぎる事である。私の経験によるも、以前特高時代の時と... 2020.09.09 法難手記
法難手記 ナンセンス 長々と固苦しい事ばかりかいたから、茲で一つ二つ新聞記者諸君や、其他に関するナンセンスをかいてみよう。私が最初連行された時の事である。庵原警察署へ着く少し手前へ来ると、同乗のK部長は『表門は新聞屋が、待ってゐるといけないから、裏門から入らう』... 2020.09.09 法難手記
法難手記 刑務所 私は、今回の事件の為、五日間静岡刑務所(正確にいふと拘置所である)に収容され、獄舎生活をしたが、其時痛切に感じた一事があるから、それをかいてみよう。此刑務所は最近出来たばかりの建物だそうで、設備其他一切がよく完備しており、文化的の香りも高く... 2020.09.09 法難手記
法難手記 人権蹂躪 自由民主々義とは、人権を尊重する事から始まるといふのは、今更言ふ必要のない程、明らかな話ではあるが、実際上それが仲々行はれてゐない事を、今度の事件によって、熟々思はれたのである。意外なのは役人が人民に対し、平気で行ふ人権蹂躪的態度である。何... 2020.09.09 法難手記
法難手記 当局に望む 以上は、詳細に述べた如く、慈悲も涙もない冷酷極まる取調べを受けた吾等として、熟々思はれる事は、どうしても、取調べの任にある人達には、宗教心の必要なる事である。言う迄もなく、被告を悔悟させるには、遮二無二責めるばかりでは効果はない。どうしても... 2020.09.09 法難手記
法難手記 帰宅後 茲で、帰宅後の事も一通りかかねばならないが、帰宅後某弁護士に面会、色々取調べの模様を話した処、其弁護士が言ふには『それは惜しい事をしましたね。被告には黙秘権があるんだから、記憶にない事は答弁しなくてもよかったので、黙ってゐてもそのために不利... 2020.09.09 法難手記
法難手記 上申書(金久平) 金久平私事、此度贈賄及び農地問題等で逮捕状により、静岡の獄舎に四十六日間勾留され、脅迫的拷問、怒号卑劣な罵声を以て、取調べを受けた当時の模様をかかせて頂き、社会の皆々様の御批判を仰ぐ次第であります。忘れもしません。昭和廿五年五月八日朝六時、... 2020.09.09 法難手記
法難手記 上申書(井上福夫) 井上福夫私事、此度起訴致されました、二件に関し、甚しい虚偽の供述を致し、御手数を掛けましたのは、洵に申訳なく、茲に其事実を申上げ御諒解を御願致し度、上申する次第であります。逮捕理由には、「昭和二十三年十二月、岡田茂吉名儀の財産参百万円を隠匿... 2020.09.09 法難手記
法難手記 カマを掛ける 取調べの場合、カマを掛けるという言葉は昔からよく言はれるが、今度の取調べに際し此カマを掛けられた事実は非常に多く、殆んど取調べの骨子となってゐたと言ってもいい。近来の取調べ方針は誘導訊問を最も嫌ってゐるやうだが、然し誘導訊問よりカマ掛け訊問... 2020.09.09 法難手記
法難手記 刑務所行き その翌日例の如く調べ室に呼ばれた。私は交霊術などと言っても、警察官などに判る筈はないから、色々考えた末斯う言った。「実は昨夜絶体絶命の結果一心に神に祈った、すると御利益があって記憶がハッキリ浮び出し、判ったからお答えをする」と言ってスラスラ... 2020.09.09 法難手記