物理療法の誤謬

物理療法は近来種類も増加し、医家は治療補助として、大いに推奨してゐるのであるが、此効果に就て、私の観る所を述べてみよふ。
物理療法中、近来最も流行する光線療法から解剖してみるに、先づ、ラヂュウムを第一とし、レントゲン、紫外線、太陽燈等であるが、是等の療法の効果は、実は一利一害である。何となれば、先づ爰に或病気を治療せんとするに、病気現象は汚血又は膿汁の溜積であるが、是等へ向って光線放射をするに於て、確かに軽快に赴く如く見えるのである。処が、之は実は病気が軽快したのではなく、容積が縮小したまでである。判り易く言へば、病気の容積を縮小して、固結せしめたのである。即ち、病気の容積を十とすれば、それが一乃至三位に縮小せしむるのである故に、容積のみから言えば、確かに七以上は減少したので、それ丈軽快に赴いたのは事実であるが、何ぞ知らん、実質が七丈減少したのではなくて、実は十が三以下に縮小固結されたのである。一銭銅貨五十個を五十銭銀貨一枚に換えた様なものである。私が実験上、斯の如き患部に対し、指頭探査の際、石の如く触れるのがそれであって、其場合、一個又は数個の小石状の固結を発見するのである。斯様になった石状固結は、溶解するに非常に困難を感じ、従而、時日を要するのである。故に、設(モ)し此患者が光線療法を受けなかったとしたら、容積は多いが固結してないから、容易に治癒さるるのである。此故に、一時的軽減には相当効果はあるが、全治さす上に於ては、反って大いに障害となるのである。
電気療法の効果も、之に酷似してゐるので説明を省く事とする。(新日本医術書 昭和十一年四月十三日)