今晩から愈々個々の病気の事に就ての御話になります。其前に先づ最初、患者を扱ふ上に於て参考になる事をお話致しますが、医者の方では大体打診、聴診及び五指の圧診であります。聴診の方は音を聴く訳で大体肺病のラッセル(ゼーゼーした音)などを聴くには都合よく、打診の方は肋膜に異常があるかどうかを診る等が重で、叩いてみて音がカンカン言へばいいが、水が溜ってゐるとボクボクといふ音がするのであります。又、お腹を手や指で圧すのですが、吾々の経験から言ふと此圧診が一番良いので、之はお腹ばかりでなく何所でも圧診する必要があります。何故なれば、例へば腹膜炎などの場合、其原因は多く腎臓や肝臓にあるのですから、此肝、腎の部を圧して病原を発見するのであります。本療法に於ける病原発見は実に正確であると思ひます。
然し茲で心得置くべき事は、取締規則に依れば、療術行為者は病気診断は出来ない事になってゐる。只患者の苦痛である個所を治療する丈しか許されてゐないのでありますから、それらの点を充分心得て善処されたいのであります。
患者に対って、既往の症状、経過、苦痛の個所等、成可く詳細に訊ね、それによって患部の病原を、指頭を以て綿密に探査しつつ、探り当てるのである。病原発見と共に其場所へ向って治療を施すのである。此場合病原は殆んど水膿溜結であり、指頭にて触圧せば多少の痛みがあるので、よく判るのである。溶解した丈は患者は軽快を感じ、それ丈治癒したのである。
私等が新患者に対する場合、先づイキナリ額へ手を宛てる。そして熱ければ必ずそこに毒血がある證拠です。そういふ人は頭が重いとか、眩暈がするとかいふ症状がある。次に、両方の顳 (コメカミ)へ手を宛てると熱い。斯ういふ人は必ず頭痛がするのであります。次に、眉毛の部を押してみて痛い人は毒血がそこに溜って居て眼に異常がある。 上瞼を押して痛い人は確実に眼病になってゐる。それは眼球に毒血が溜結してゐるからであります。先づ、病原発見は斯ういふ工合なのであります。
次に施術する場合の心の持方に就て、一言せんに、此患者を治癒せば、観音運動の為になるとか、又は物質を提供するならんなど想像する事は、大変不可であって、唯患者の病苦が除去され、治癒され救はれるやう、念願するだけが良いのである。何となれば、観世音菩薩の大慈悲は、一切衆生を無差別的に救はせられる大御心であるから、人に依っての別け隔ては決して無いのである。
患者取扱(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)
治療方法(新日本医術書 昭和十一年四月十三日)