巻頭言

時局は愈々朝鮮戦争も、曲りなりにも平和の段階に移って来たようである。何しろ如何に中共の人海戦術と雖も、国連側特にアメリカの進歩せる武器に遭っては、到底長く太刀向う事は出来ないに決っている。其様な訳で、最初の国連軍を海へ落して了うなどという目算は、反対に下手をすると御自分の方が、北鮮から満洲の方へ押込められて了いそうな形勢になって来たので、流石の中共軍も意地にも我慢にも、到底戦争継続は不可能となったので、クレムリンへ救いを求めた処、クレムリンの方でも、一旦停戦しておいて、徐ろに将来の計画を立てた方がいいとして、今度のような停戦提議となったものであろう。

唯茲で、考えなければならない事は、ソ連は其条件として停戦のみに限り、外交其他の国際間の問題には、触れないという一事である。此様な条件の裏には、斯ういう事が考えられる。それは共産側が今後再び軍事行動を起そうとする場合、軍事以外の協約があるとするとそれに引っ掛る面倒がないとも言えないからでもあろう。だからソ連はどこ迄もそういう事のないように、単に北鮮軍と中共の義勇軍司令官と、リッヂウェー総司令官との双方の取決めに限定したのであろう意図が、よく窺われるのである。
とすれば一旦鉾を収めておいて、今日迄大犠牲を払って来た中共軍の創痍と、ソ連が援助の為に費した軍需の大消耗も、補填せねばならないし、それには今後相当の時を要するので、そこを狙ったのが今度の条件であろう。

然しそれだけならいいが、其先が問題である。言う迄もなくソ連が今度の戦争の経験で知り得た米国の武器や、作戦に対する諸々は、今後に於けるイザと言う場合に大いに役立つのみか、あわよくば米を圧倒する程の、大軍備を整えたいという野望もあるであろうし、又それ迄と雖も世界各方面に脅威を与えたり、小国を示嗾(シソウ)して局部的戦争を起さしたり、共産主義宣伝の為の、彼の手此手を打つという意図もあろうから、それらの事も予想しなければならないという訳で、先頃米国政府の方でも、仮令停戦条約が結ばれる後とても、軍備の手は弛めてはならないという警告や、国連圏内の各国へ対する軍需援助も、向う三年間は継続するという方針を 明かにした点などからみても、今後の世界は平和の夢などの実現は望むべくもないであろう。以上の如き種々の事情を綜合してみると、今後双方の軍備競争時代に入るとも言えよう。斯う見てくると、最後に及んで第三次大戦の勃発がないと誰か保證し得ようか。之等を考える時、世界人類の前途や寔に多難の一語に尽きるであろう。

以上によってみても、之からの世界は確かりした信仰を抱いた者でなければ、安心して生きてゆけない事は余りにも明かである。

(地上天国二十六号 昭和二十六年七月二十五日)