結核患者が最も恐るるものに血痰がある。故に一度血痰をみるや、急に不良化する場合が往々あるのである。然るに、私が多くの経験によって知り得た所によれば、血痰は肺臓内から出るといふ事は極稀であって、大抵は肺臓以外即ち腋窩肋骨部、扁桃腺の外部の位置にある毒素溜結、頸部淋巴腺等からである。そうして之等局部に微熱がある事によって判るのである。それは局部に溜結せる毒素(血膿)が、熱によって溶解さるるからである。故にその部の毒結を溶解するや、血痰の排泄を見なくなるにみて明かである。私の経験上、血痰のある患者は治癒し易い事と、全治後非常に健康になる事である。
次に、喀血のある結核患者は割合経過は良好である事は医学も唱へてゐる。そうして喀血に於ても肺からのは稀であって、多くは、種々の局所からである。例へば肋骨部、肩部、頸部淋巴腺等で、人により頭脳からの場合もある。之等は喀血後、頭脳の一部分の長き痛苦又は不快感が消滅するにみても明かである。又脳溢血発病の一歩手前ともいふべき、左右孰れかの頸部淋巴腺附近の毒血溜結が、浄化によって喀血する事があるが、之によって脳溢血を免れたのであるから喜ぶべきである。然るに、斯かる場合、医家は結核による喀血と思ひ謬まる事が多いのである。そうして喀血の血液は毒血であって、何れは排泄せられなければならないものであるが、喀血に因らざる場合は、赤痢又は痔出血等に因る事もあって、之等は自然療法によっても必ず全治するものである。
ただ茲に、稀ではあるが頗る悪性の喀血症状がある。それは敗血症による喀血である。之は毒血の浄化作用と異なり、全身の血液が肺を通じて排泄さるるのであるから、容易に止血し難く、治癒は頗る困難である。
然し、茲に知っておくべき事がある。それは普通喀血の場合、菜食をする時は必ず止血するが、再び肉食をする時は、又喀血する例はよくあるのである。之によってみても喀血に対しては菜食に限るといってもいいのである。
(結核の正体 昭和十八年十一月二十三日)