三 自然栽培の意義

自然栽培は今のわが国では殆んど等閑視されて、猫も杓子も化学肥料でなければならないように言いますが、そこに捨ておくことのできない一大誤謬があるのであります。人間の健康が悪くなるのも、病気にかかり易くなるのも、更にまただんだん人間の寿命が短くなるのも、惹いては争いの原因もこの一大誤謬から来ておるのであります。わが教祖は此ことを霊感されて自然栽培法をお説きになり、且つその実行を御奨励なさるのでありますが、化学肥料万能に毒されておるわが国民の耳には、ただ奇談としかうけとれないようであります。まことに憂うべく悲しむべきことといわねばなりません。

ところが米国始めその他の諸外国では、近頃漸く化学肥料の弊害を認めるものが多くなり、堆肥栽培による傾向が著しくなっておるのであります。 科学万能の米国に於てすら化学肥料を否定する者のある此事実こそ依然化学肥料万能の囚となっておるわが国の農業家にとって、まことによき反省資料と思えるのであります。以下その実例を引用して参考に供することにいたします。

昭和二六年三月二五日発行の酪農雑誌『デアリマン』には「自然に還る農業の科学―ロデール氏の農法」と題して左の記事がのっています。

完全な堆肥だけでつくった土、これが生きた土だ。……病気と薬が競争している。新しい薬が出るとすぐ新しい病気が出る。こういうことは忌わしい競争である。こういう事は昔はなかった。古老に訊くまでもない、昔はビタミン剤などいうものはなかった。そういう必要がなかったからである。カルシウムも鉄分も沃度も薬から摂らなかった。そういう必要がなかったからである。なぜ人間はそういう薬を必要とするようになったか、それは農業のせいである。しかも農業者は、そういう農業を営むために、経済的苦労を-化学肥料を購入のため-重ねているのである。

ロデール氏の農場では、化学肥料というものを絶対につかわない。化学肥料で作った食料は人類の健康を蝕んでいることを知ったからである。

ロデール氏はいう。小麦は昔も今も小麦である。しかし化学肥料をつかわなかった時代の小麦と、化学肥料をつかうようになった現代の小麦とは、栄養的内容が変ってしまっている。現代の食料には、前時代と同じ栄養的物質を含んではいないのである。化学肥料による生産は、小麦、卵、牛乳、果実、バターなどそれぞれ、外観はむかしのまま、その組織を変えてしまった。それは、土壌の中に欠乏した成分をすべて補給せずに、収量を増加させる化学肥料が穀類や、野菜類の栄養価値を変化させ、鶏や乳牛がその飼料で飼われる結果、卵や牛乳にも同じような変化が起るのである。

ロデール氏はまた一九四三年アメリカ農務省のワイルダー博士が発表した説をとりあげて次の如くいっておる。「ワイルダー博士は土壌が貧弱化した、 このような土壌の生産物は、 その中に含有すべきある栄養分を欠くことになる。化学者は早晩このような異常を正すことが出来るだろう。これまでは農業の目的が、エーカー当りの最大収量か、生産物の大きさや、外観をあげることにあったが、将来の目標は高度の栄養価に置くべきである」といっておるが、ワイルダー博士は医者であり、同時に農務省の役人であるだけにその言葉に興味はあるが、しかし、「異常」を正すのは化学者ではなくて生物学者である。すなわち、「土は生きもの」だからである。「生きている土」にだけ、人間や家畜に必要な栄養素をもった作物が育ち、化学肥料を用いた土地の作物にはこのような栄養素がない云々。

更にロデール氏は、土壌にはバクテリヤ、放射状菌、カビ、酵母、原生動物、藻、その他の微生物が豊富にいる。これらの下等の動植物がむらがって土壌の生物学的な生活を営んでいるのである。これらの微生物の分布は地表三、四寸に限られ、そこには彼等の食料になる有機質が豊富にある。そして微生物たちは自然界の影響に支配されながら、互に微妙な均衡を保って生活している。もし土壌の状態が外からの影響、たとえば強い化合物などが悪化すると、微生物たちの生活は破れて植物の生育は順調に進まなくなる。栄養的に欠陥のある食料作物は、こういう土壌からできる。すなわち化学肥料によってできた作物がそれである。自然のままの生きた土壌は、それ自体に薬物的な効果さえあるものである。アメリカのサウス・カロライナの黒人の間には、一世紀以上もの土を喰う習慣があった。腹痛に効きめがあるといい、仲間が遠く離れたところにいる時は、小包で土を送ってやるそうである。彼等の子供達が乳離れすると、すぐ土を食べはじめるという。これは土壌の中に、人体に有益な要素があるからである。人間ばかりではない、たとえば仔豚がかかり易い腸炎には、腐植質の芝土が特効がある。しかし化学肥料を施した畑の土は効き目がない。また畑から害虫をとってくれる野鳥は、化学肥料の効いた畑には寄りつかないのである。生きている健康な土壌、それは堆肥によってのみつくられる。人間に健康を与える食料作物、人間に必要な栄養をもった乳や卵をもたらす家畜の飼料は、堆肥で培われた土地からだけ得られるのであると言っておる。

ロデール氏はまた語る。化学肥料に毒された畑の作物は、人間の活力を減じていくばかりでなく、家畜にも怖ろしい害を与えている。アメリカでは多数の牛がバング病にかかり、これによる損害は年々五〇〇〇万ドルに上るそうである。バング病は乳牛の不妊症の原因となり、人間には波状熱を起こさせるもので、酪農家が闘わねばならない最大困難の一つとなっている。また乳牛の乳房炎は、アメリカ各地で二〇-二五%の生産減をもたらしているのだ。これらの病気は、何かの間違いを知らせ、かつ土壌を根本的に改造し、良質の土壌からできた良質の飼料で飼うことを、自然が警告しているのだ。

ロデール氏は更に言葉を続けて、鶏、豚、馬、乳牛などをそれぞれ隔離して、一方を肥沃な土地-堆肥を用いた土地-から採れた飼料で飼い、一方を市場から購入した飼料で飼育したものと比較してみると、よい畑から採ったよい飼料で育った方は良好に育つばかりでなく、飼料は少量ですみ、約一五%の節約ができ、耐病性も著しく増加した。多くの牛の病気の原因は活力を失った飼料を摂るためであって、最悪のものは家畜飼料として特に生産されたものであるともいう。

『デアリマン』誌の記者は最後に次の如く述べている。ロデール氏は化学的根拠にもとづいて徹底した堆肥農法を実行しておるのだ。ロデール氏の農法は、はじめは化学万能主義のアメリカ農業に受け入れられなかった。しかし人間と家畜の衰弱は漸く、ロデール氏の農法に注目せざるを得なくなった。いまや、大学でも、大農場でも、農務省でも、化学農法の前途に危険を認めないわけにはいかなくなったのである。……肥料代、飼料代と悩んでおりながら、日本では化学工業生産物をつかいたがっている。……こういう日本農業の現状にとってロデール氏の農法は、重大な教訓である云々。

因に曰う。 ロデール氏は、 ペンシルバニヤ州のアーシンに一大農場をもち、 専ら科学的試験の下に農作物をつくり、また家畜を飼養しておる有名な栽培家であります。

ロデール氏はまた『黄金の土』という書を刊行して研究の結果を公にしています。なかに幾多栽培権威者の意見が掲載されており、自然栽培の重要性が詳細にもられてあります。

(世界救世教教義 昭和二十六年十月十日)