医学上、原因不明で、治癒不可能とされてゐる病気に喘息がある。之も日本人に頗る多い病気であるから、詳説してみよう。
喘息は、医学に於ては二種に分けられてゐる。即ち心臓性喘息と気管支性喘息とである。即ち、前者は発作的であって、発作の起るや激しい呼吸困難を来し、重症にあっては呼吸切迫して、殆んど死の直前に在るやと思ふ程で、実に視るに堪えないものがある。又後者は強烈頻繁なる咳嗽に苦しみ、不眠、食欲不振、呼吸困難等痛苦甚だしいものがある。そうして何れも週期的に、例へば冬季に限るとか、夏季に限って起るとかいふ症状と、二六時中断えず苦しむのと両方ある。
医療に於ては、注射によって一時的苦痛を除去するのが唯一の方法であって、全く注射するや、如何に激しい苦痛も、忽ち拭ふが如く快癒するのである。然し或時間を経過すれば再発するので、患者は苦痛に堪えず、復(マタ)注射を受くるのである。然し、注射を繰返す毎に漸次其効果を減じ、やむなく頻繁に行ふやうになり、此結果一日二三十本位、注射を行はなければならない患者もあるが、之等は全く注射中毒の重症に陥った者である。然し、斯の如き重症でも私は根治さしたのである。言ふ迄もなく、喘息の発作や咳嗽は、浄化作用であり、注射は勿論、その薬毒によって、浄化作用の一時的停止を行ふのである。今日医学では喘息の原因に就て、諸説紛々としてゐるが、私の知る限りの説では、あまりに原因に遠すぎ、殆んど暗中摸索的である。その説の中で、迷走神経の異状といふのがあるが、見当違ひも甚だしいのである。
そうして、私の発見によれば、心臓性喘息は、斯ういふ原因によるのである。それは先づ、患者の横隔膜の下辺-即ち胃の上部及び肝臓の上部を診れば必ず腫脹してゐて微熱がある。そこを圧すれば硬化してゐて多少の痛みを感じ、毒素溜結がよく判るのである。之が第一の原因であって、次に、背部心臓の裏面も同様である。又、胸部及び腋窩(ワキノシタ)及びその肋骨部を指頭にて圧すれば、相当強痛を感ずるのである。之は右の附近に毒素が溜結してゐるのであって、之が第二の原因である。次に肩部(重に左)臍部の周囲及び大腸部(重に右側)鼠蹊腺部(重に右)背面腎臓部(右又は左)等之が第三の原因である。
原因は、右に示した通りであるが、第一は喘息の主因ともいふべきもので、喘息の本格的原因である。特に発作は第一が主で、第二が次であって、第三は、発作の原因とはならず、唯だ咳嗽の原因となるのである。そうして何故に発作が起るかといふと、第一の原因即ち横隔膜下辺及び心臓裏面の毒素溜結が、浄化作用によって溶解し、それが喀痰となって肺臓内に浸潤して排泄されようとする場合喀痰が濃度の場合と、人により肺膜が厚性の為、容易に喀痰が浸潤し難いので、肺臓自体の方から喀痰を吸収すべく、強大なる呼吸を営なまうとするので、それが発作である。その證左として注射を行った後、必ず喀痰を排泄すると同時に発作が止むによってみても瞭かである。又、私の経験によるも、治療の際喀痰の排泄がある毎に発作は軽減してゆくのである。又、此症状は必ず食欲不振であるがそれは常に毒素が胃を圧迫してゐるからである。従而、軽快に赴くに従って、患部の腫脹は柔軟となり、小さくなるに従って、胃は活動を始め、食欲も漸次増加するのである。又第二の原因即ち肋骨部の毒素溜結も、第一とほぼ同様の作用をする。第三の原因は咳嗽だけであるが、発作や呼吸困難を促進する事があるから、是等も除去しなければならないのは勿論である。右の原理が正しいといふ事は、如何なる喘息と雖も、本療法によって完全に治癒せしめ得るにみて、疑ふ余地はないのである。
右に示した第一、第二、第三の原因に就て、今少しく説いてみよう。喘息には遺伝即ち先天的原因も相当あるが、後天的原因の方が多いのである。然らば、後天的原因とは何ぞやといふと、先づ肺炎に罹るや、肺炎の特性である多量の喀痰の排泄を医療は抑止するが故に喀痰は或程度排泄されても相当の量を残存する事になるので、その喀痰は上より下へといふ具合に肺臓外へ逆浸潤を為し、横隔膜下辺に集溜凝結する。又心臓裏面の毒結は、萎縮腎の余剰尿で、之が第一原因である。
次に、第二原因は、尿毒及び薬毒が胃や肝臓の上部及び肋骨と其附近に集溜するのである。特に薬毒が多いのであって、必ず発熱を伴ひ、人により肋間神経痛と同様の痛みがあるのである。第三の原因は、感冒の咳嗽と同様である。
又、小児喘息もあるが、之は、小児病の項に詳説する。
(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)