冷及び便秘

冷の原因は、局部的発熱又は局部的毒素溜結の為である。多くは腰、下腹部、脚部、足の指先等であるが、それ等局所に滞溜する毒素の浄化作用の発熱によっての局部的悪寒なのである。然るに、全身的悪寒の場合は悪寒として感ずると同じ意味に於て、局部的の場合は冷として感ずるのである。故に、全身的悪寒の際、何程衣類を重ねても暖くならないと同様、下半身が冷ゆる場合、婦人などは、何枚もの腰巻を巻いても猶冷ゆるといふのは右の理に由るからである。唯だ膝下から爪先へかけて非常に冷い人がある。之は毒素溜結の為血液不循環であるのに対し、右の部は空気に晒され易い為、冷却が慢性的となってゐるからである。

次に、便秘症は非常に多く、何年も何十年も苦しむのであるが、此原因は、腹膜即ち臍の周囲から下腹部へかけて毒素溜結があり、それが糞便の通路である直腸を圧迫するのでその為、通路が狭小となり、硬便は閊(ツカ)へて通り難くなるのである。故に、右の毒素を溶解するに於て容易に治癒するので、私が治療の際、例外なく治癒したのである。

又、便秘症の人は下剤によって辛くも目的を達するが、之はどういふ訳かといふと、人間は飲食物に毒分のある場合中毒し、嘔吐又は下痢を起すのである。それは自然浄化による排泄作用である。下剤は此理を応用したもので、即ち、中毒作用を起す薬剤を服用するので中毒を起し、それが下痢即ち液体便となり、それが猶も硬化せる宿便を液体化し押出すので、狭小なる直腸も、液体なるが故に通過し易くなるのである。然し、右の理によって下剤を長年月持続するに於て、其中毒による害も軽々に出来ないので、腎臓病其他種々の病原となり死の原因となる事もある。

又医学に於ては、便秘は病気の原因になるやうに思って頗る恐れるのであるが、之も、大いなる誤りである。私の実験によれば、嘗(カツ)て四拾余歳の男子の胃癌の患者があって、二ケ月位の治療で全快したのであったが、治療期間中、弍拾八日間、便通が無かった事があるが、病気に対し、その為の影響は聊かもなかったのである。其人は今も健康で、農業に従事してゐるそうである。其後扱った一人の患者の話によれば、その人は二ケ月間便秘した事があったといふ事又今一人の患者は六ケ月間便秘したといふ、それでも右両人共何等異状は無かったといふ事であった。之等によってみても便秘なるものは、些かも悪影響のあるものでない事が判るであらう。

次に、医学に於て、便秘を放任しておくと自家中毒なるものが発生し、それが何等かの病原になるといふのであるが、之も誤りである。如何なる理由からそういふ説がおきたものであるか。多分宿便が血液中にでも侵入するやうに想像したのであらうが、私は人体内の真相が判明したならば、自家中毒なる言葉は消滅すると思ふのである。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)