咳嗽は、曩に詳説したから、茲では二三補遺(ホイ)として説くが、咳嗽の原因は身体凡ゆる局部にある事は既に説いた通りである。そうして医学が、咳嗽の原因を咽喉が悪いとしてゐるのは、あまりにも見当違ひである。故に咳嗽を止めようとして吸入法を行ふが、無効果である事も、既に述べた通りである。但だここでは強い咳嗽と弱い咳嗽の原因を述べてみるが、強い咳嗽とは、喀痰の濃度であるのと、喀痰の多量である為め、吸引に力を要するからである。それに反して軽い咳嗽は、喀痰の稀薄と少量なるためである。軽い咳嗽の場合、全然喀痰をみない事もあるが、之は微粒であるからであって、斯様なのは大抵、咳嗽後相当の時間を経て、少量の喀痰があるものである。
そうして、咳嗽の原因である喀痰は、意外な局所から出る事がある。それは脚部又は頭脳及び顔面であって、之等は医学では想像もつかないであらうが、私が治療の際、右の部の毒素溶解法を行ふや、間髪(カンパツ)を容れず咳嗽が出るにみても、疑の余地はないのである。
次に、逆上(ノボセ)とは如何なる原因であるか、之も世人が考えるやうな、血液が逆上するのではないので、顔面部に溜結する毒素の浄化作用としての、其部の発熱である。勿論、紅潮を呈するのは熱の為であって、右の毒素を溶解するに於て、治癒するのである。
(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)