谷川徹三氏との御対談(一) 宗教と芸術について

小坂氏 こちらに参ります車の中で谷川先生が「この事業を宗教団体がやっているという事は新しい時代現象だ、今までの日本の歴史を通じて劃期的な事だ。これに対して国家的に理解を深めなければならない」ということを言われてましたが、われわれも賛成です。非常に良い事業だと思います。今の宗教団体では、大学を造ったり幼稚園を造ったりしてますが、これは誰でもやっている事です。こちらの今やっておられる御事業は、コレクションだけでも大変なことなのですから。

明主様 私はこう思うのです。宗教と芸術は離れるべからざるものです。とにかく宗教というのは天国を造るのが目的ですから、それには大いに芸術面に働きかけなければなりません。ですから戦争が無くなる時代となれば、芸術が中心となります。昔には聖徳太子も相当やられましたが、聖徳太子は仏教を日本にひろめた元祖のようなものですが、仏教芸術を一番の方法として仏教をひろめたのです。そこで私は、聖徳太子が日本仏教をやり始めたように、聖徳太子を世界的にするような意味で、世界的のものを造るのです。特に日本人の美的感覚の深さというものを大いに世界に認識させる必要があると思うのです。箱根の美術館は試験的にやったつもりですがどうやら見られるように出来ました。今度は熱海に造ろうと思ってます。

谷川氏 しかしあれは相当なものですね。殊に箱根のような所にお造りになられたことに意味があると思います。箱根には外人が沢山来ますが、外人目当の安っぽい土産物を並べてあるところに、美術館でああいう良い物を並べるということは、非常に意味があると思います。

明主様 その次には、いずれ京都に仏教美術専門の美術館を造ろうと思ってます。谷川氏熱海にも京都にもですか。それはなかなか雄大ですね。これは一つ大いにやっていただきたいですね。

奥様 でも今日(京)すぐにというわけにはゆきませんね。(一同大笑)

明主様 日本の仏教彫刻は世界一の物で、世界に誇るべきものですからね。

谷川氏 そうですね。

明主様 しかし、なにしろ一番苦しむのは金です。これで年中楽しみと苦しみの両方を味わってます。

谷川氏 しかし今これだけ買える所は外にはあまりありませんでしょう。とに角博物館にしても実に僅かの購入費しか持っていないのですからね。

明主様 ですからつい無理をしてしまうのです。私の方で買わなければアメリカに持って行くというのがチョイチョイあるので、それをくい止めなければならないのです。その国家に対する功績は余程認められてよいと思います。

谷川氏 そうです。

小坂氏 それに税金をかけようというのですから堪まりませんね。

明主様 そのために財団法人にしているのです。そこで宗教で購入して、財団法人の方に寄附すればよいのです。

小西氏 谷川先生が美術館で一番長く時間を取って見られたのは仏像です。牛が中にはいっているのがありますが、牛を外に出して見られ、写真を撮ってくれとか言われ、これが一番長くて三時間でした。私達は足が痛くなって、三人共逃げ出してしまいました。

小坂氏 それでもまだ時間が足りないと言っているのですから驚きますね。今日は外人が奥さんを連れて見えてましたが、大変結構だと思います。とに角世界中の人が来て、ああいう美術品を見て行くのは良いことと思います。これは外国の方に先に有名になるかもしれませんね。ただ外国の人達には説明がつかないと分り難いのではないかと思いますが。

明主様 そういう説明者のこともだんだん考えております。

阿部執事 今度の浮世絵展には近藤市太郎さんが書いた説明がつきます。

(昭和二十八年六月三日)