此病気は、人間が生れながらにして保有せる一種の毒素が、皮膚面から排除されるもので、発病及症状としては、早くて二、三日、遅くて十日間位発熱が持続し、遂に皮膚面に発疹をするのである。したがって熱が持続し、他に異常の無い場合は、麻疹の疑を起すと共に注意して皮膚を見るべきである。其際よく軽微の発疹を見る事がある。又口内の粘膜に白色の疹を見る事がある。恢復期には、眼の爛れ、耳垂等も起るが、之は麻疹の毒素の集溜的排除であるから、放置してをけば自然に治癒するのである。
麻疹は衆知の如く、生れてから罹らない人は一人もあるまい程一般的の病気であるが、此原因は親から受継いだ毒血の排除であるから、実に有難いもので、寧ろ病気とは言へない位である。それを知らないから、無暗に恐れ当局なども予防に懸命であるが、全く馬鹿々々しい努力である。故に麻疹は何等の手当もせず、放って置けば順調に治るものである。それを余計な事をして、反って治らなくしたり、生命迄危くするのである。只此病気に限って慎むべきは、発病時外出などして、風に当てない事である。といふのは麻疹の毒が皮膚から出ようとするのを止めるからで、昔から言はれてゐる風に当てるな、蒲団被って寝てをれとは至言である。といふのは発疹を妨げられ毒が残るからで、再発や他の病原となるので注意すべきである。
そうして麻疹は人も知る如く肺炎が最も発り易いが、之は氷冷など間違った手当をする為で発疹は外部に出ず、内部を冒す事となり、肺胞全体に発疹する為で、肺の量が減るから、頻繁な呼吸となるが、其割に痰が少ないのはそういふ訳である。此肺炎も何等心配せず、放っておけば二、三日で必ず治るものである。又麻疹が治っても、よく中耳炎や目が悪くなる事があるが之は毒の出損った分が、耳や眼から出ようとして、一旦其部へ固まり、高熱で溶けるのだから、放っておけば日数はかかっても必ず治るものである。
そして普通麻疹のみとすれば一回乃至三回位、肺炎併発のもので五、六回位で全治するのである。
麻疹(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)
小児病(文明の創造 昭和二十七年)