此病気は、不純な性交後二、三日位経て、尿道に不快を感ずるのであります。最初はムズ痒く、次は、排尿の際痛みを感じ、尚進んで耐えられぬ激痛を感ずるもので、相当の発熱もあります。そうして、悪化するに従ひ、盛んに白色の膿が尿に混って出るので、其際コップに採って見る時、濛々として煙の如く不透明であります。発病後、普通一週間目位が最盛期で、それを過ぎると、漸次、快復に向ふものであります。そうして此病気は統計上、飲酒家に多いので、世間よく「下戸は梅毒、上戸は淋病」と謂ふ言葉がありますが、そういふ傾向のあるのは事実であります。治療の場合、触指は不可能でありますから、霊的施術のみでいいのであります。 急性は速かに治りますが、慢性は相当の時日を要するのであります。
元来、淋病なるものは、一度罹病するや、医学上でも終世全治せぬものとされてゐますが、之は事実であります。勿論、黴菌(バイキン)に由る伝染ですが、全治したやうでも、実はその黴菌は死滅するのでなくて、活動力が衰耗したのであります。それは、繁殖力と伝染力を失ってゐるに過ぎないので、言はば、有機的動物性から、無機的植物性に変化したのであるから、何時、飲酒其他の不純性動機によっては、有機性に還元し、再発しないとは言へないのであります。慢性になり易いのは此理に由るからであります。
之等花柳病は、霊的に言へば、不純行為に対する“天の警め”とも言ふべきものであるから、患者は其非を自覚し、再びせざるべく悔悟する、其精神が治癒を速かならしむる力は、予想外大なるものがあります。そうして、尿道疾患であるから、出来るだけ水分を飲み、排尿を数多くするのが、洗滌的効果があるので、其際、松葉を枝共(エダゴト)煎じて服用すれば特にいいのであります。それは、松脂の成分が、菌の巣窟へ対し、パラフィン紙で密閉するやうな作用をするからであります。
そうして此病気は、移行する性質のものであるから、其点大いに注意すべきであります。それは摂護腺炎、睾丸炎、膀胱疾患等にまで及ぶからであります。最盛期を過ぎるに従ひ、尿中に淋糸と名付くる木綿糸位な膿糸があり、それが漸次短くなりつつ治癒するのであります。併し全治後と雖も、数年は多少の淋糸を見るのであります。軽症で二、三週間-重症で一、二ケ月かかります。
淋病(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)