つらつら現代文明の、世界とやらを眺めたら、危いオッカない事ばかり。何時爆弾や毒瓦斯が空から降るやら判らない。
抑々毛唐が拵えた科学文明といふ奴は、飛行機、ラジオを初めとし、便利な器械や発明を、やって呉れたそのお蔭で、寝てゐて千里も二千里も、行ったり来たり丸いもの、使えば勝手に出来るのじゃ。まったく名誉も何も彼も、大抵の事は思ふ様に、なってオマケに馬鹿野郎でも、薄野呂野郎でも人様を、米搗バッタに致すには、いとも易々出来る娑婆、したがアベコベに銭がない奴と来たらば之は又、誠に以て情ない惨めな態は稼いでも、稼いでもオッツかぬ。
間誤々々すりゃ食ふ事も、出来ないといふ情なさ。万物の霊長と自惚の人間様は宛らに、機械同様所か機械の奴に使はれて了ふといふその態は、大家に飼はれる犬猫より、よっぽど惨めな有様だ。餓鬼が増えたら食えないと、生まないやうな算段を、しなけりゃ追付かぬ世智辛さ、子宝などといふ言葉は、丸持共より通用しない、といふやうになっちゃ世も末じゃ。
文明開化は人類の、福祉を増すといひ乍ら、実は不幸が増すのじゃて。そこで阿呆、謂はば便利な世の中になる程苦労が増えるのは、どこかに間違ひがあるじゃらふと、よく考へてみりゃコレハこれは、世界中の人間共が、飛んでもない大間違をやってゐる。毛唐の智慧の浅ましさ、それをボツボツ此阿呆が、腸の底へ泌みる程、説いて聞かしてやらふから、黄色も白も黒ん坊も、耳の穴をばカッポヂって、能くよく聞くのが良いで御座らふ。
世界万国ズラリッと見渡してみりゃどの国も、今お互ひに戦争をしなきゃならぬと汗水を垂らしてゐるとは怖ろしい。虎狼よりは未だ惨い、野獣の如な白色の野蛮人共は牙を剥き、爪を研いで唸ってて、今や生命の奪い合ひを、オッ始めんとする様は、世界各国の有様で御座る。ムッソリーニの親爺は英国へ、ヒットラー団長がフランスへ、スターリン破落戸(ゴロツキ)は日本へ、飛掛らふとして今将に、物凄い息吐いてゐる、穴恐ろしや怖ろしや。
こんなに切迫した世界、いづこを風が吹くのかと、知らぬお顔の半兵衛で、平和は百年も続く様、思って枕を高々と、グーグー昼寝の高鼾き、自由か不自由か知らないが、毛唐受売りの屁理屈を、ホザク青白い弱虫が、相当巾を利かしてて、大和魂抜く事に一生懸命になってゐる。こういふ手合の後には、マッソン結社の大悪魔が、ペロリと舌を甜めづって、ゐるとは更に気が付かぬ、いと御目出度い御連中、まったヨボヨボ爺さんや、金がフンダンに有余る、倖せ一人で背負ってる、やうなお方は、こういふ結構な娑婆じゃて、一日も延したいと、国は二の次三の次、泰平無事を願ふのは、当り前では御座らぬか。今に吃驚仰天の、時が来なけりゃ倖せじゃ、未だ未だも一つ厄介な、御連中様がゐらっしゃる。
近頃御覧の途轍もない、馬鹿大仕掛な選挙粛正とやらいふ御手数を、掛けなけゃならない程といふ、怪しからん事やりたがる、政党屋ちう方々が、何だか国家を思ふのか、思はないのか判らない、様な為体(テイタラク)とは心細い、我党よりも国家の方が、第一といふ事心得て、やっておもらひ申したい。そんなこんなを見るにつけ、ヤキモキしてゐる軍人の国家を思ふ真心は、泪の出る程嬉しいと。
(昭和十年)