近時宗教復興の喧(ｶﾏﾋﾞ)すしい声に追立てられる様に躍り出たのは、主に仏教側で仏教学者等である。彼等は得々として口に筆に、昔からの諸々の賢哲によって言ひ尽された説話や理論を丹念に焼き直して、大いに売付けんと大衆に向って怒号し続けてゐる。然るにも拘らず、大衆は縁日を素見す如に、通り一遍の一顧を与へるに過ぎないのである。
中にはインテリ側に属する人で、科学に慊(ｱｷﾀ)らない結果、文献等を漁って研究的に手を染める者もあるが、是等は何時迄経っても信仰の境地迄は進めない人々で、最後迄第三者の立場を出られないのである。之が今日笛を吹いてる仏教家の一群と踊らない大衆の態度との有の儘のスケッチである。
他方、新興宗教と名付けられ、邪教インチキとして凡ゆる漫罵を浴びつつある一群がある。此一群は、治病を第一の看板として活躍し、兎も角既成宗教群から目の仇にされる丈の勢力を得て了ってゐるのである。邪教かインチキか、それは今茲では言はないが、唯何故に既成宗教が信徒獲得に無力であり、新興宗教がそれに成功しつつあるかを言ってみたいのである。
今日の世相の行詰りと、困惑裡に喘いでゐる大衆は一体何を求めてゐるのであらふか。彼等は切実に、何物かに縋らなければ一日として過されない迄に切迫してゐるのは事実である。然るに此大衆が要望してゐる其或物をはっきり既成宗教家は掴んでゐない。否掴んでもその或物を与へ得られないのかも知れないが、畢竟、問題は此点に存するのである。
既成宗教家群が大童になって怒鳴ってゐる事と書いてゐる事を一瞥してみるがいい。それは緊迫せる実生活と何等交渉のない仏教理論である。三諦円融がどうの、教行信證がどうの、諸法実相がどうの、大乗仏教がどうのといふ様な、食ふに困らない有閑人か学究の徒等が弄ぶに相応の代物である。故に、幾何怒鳴っても笛を吹いても、気の毒乍ら効果がないのは当然の話である。恐らく宗教復興の声の大きさの割合に対して、それが為に、仏教信徒が増加するといふ傾向は、何処にも見出せないであらふ。
それに引換えて、新興宗教が凡ゆる罵詈(ﾊﾞﾘ)、讒謗(ｻﾞﾝﾎﾞｳ)を浴せられ乍らも、素晴しい発展性を表はし、急速度に信徒が増加して行く事である。而も、新興宗教は、既成宗教の罵詈に酬ゐやふとはしない。或は酬ゐる時間が無い為かも知れないが、唯直向に教線拡張にのみ専念してゐるのである。
外面は頗る進歩してゐる様にみえて、其実績の余りにも挙らない西洋医学にも罪はあるのである。西洋医学でその誇張するが如く病気が治り、健康を全うし得らるるならば、新興宗教に趨る者は恐らく、殆んどあり得ないであらふ。故に、私は既成宗教家及び現代医学者に警告したいのである。それは新興宗教に発展性を与へてゐるそれ自身は、実は既成宗教と医学者であるといふ事である。
故に、既成宗教家及び医学者は、新興宗教へ対し漫罵を浴せる前、先づ充分に自己省察をして、其根本理由である処の大衆の悩める病気をして、新興宗教へ趨らない迄に速かに治してやる事である。 それ以外に、新興宗教を衰滅せしむべき方法は断じてない事を認識すべきである。若し此重点を認識出来ないで、相不変、低劣なる独断的漫罵を能事とする限り、既成宗教にある信徒は日に月に新興宗教に転向者の数を増すであらうし、又病院及び医院は、終に門前雀羅(ｼﾞｬｸﾗ)を張るといふ迄に到らないとも限らないであらふ事を戒告したいのである。
（昭和十一年）