治療解除歎願書

謹而、歎願仕候。

拙者儀、永年療術行為営業罷在候者ニ有之候処、昨昭和拾壱年七月弐拾八日療術行為禁止ノ御指令ヲ受ケ、爾来今日迄只管謹慎ノ日ヲ送リ申居候。然乍ラ静ニ自己ヲ省ミ候時、全ク軽挙妄動ノ点多々アリシ事ヲ相識リ、深ク衷心ヨリ悔悟仕リ、洵ニ天ノ誡メト存ジ、自省ノ念ニ駆ラレツツ今日ニ及ビ申候。

然ルニ、当時多額ノ負債ニ苦シミツツ有之剰ヘ多数ノ子女ヲ擁スル家族ノ生計ニ対シ、無収入ノ儘一箇年余ヲ辛フジテ支ヘ来リ候事ナレバ、今日ト相成リ最早如何トモナシ難キ窮境ニ迄立到リ申候。

尚又、現在宅ハ目下第一債権者タル勧業銀行ヨリ競売執行中ニ有之、其他ニモ数口ノ債務有之候モ、夫等ハ療術行為御許容アル迄ハ不可能ノ理由ヲ以テ延期仕居候。 申上グル迄モナク拙者本年五拾六歳ニ相成リ、資金モ又特殊ノ技能モ無之者故、今更転業モ不可能ニ有之、且永年負債ニ苦シミ来リ候コトナレバ蓄財トテモ無之、多数ノ家族ヲ抱ヘテ、今後如何ニシテ生クベキ乎、全ク進退谷ルノ実状ニ有之候。

従而、療術以外生クルノ途ハ全ク無之候。何卒此窮状ニ対シ深厚ナル御同情ヲ賜リ、一家ノ生計ヲ営ミ得ラルルダケノ療術行為ノ自由ヲ御与被下度様、偏ニ懇願奉上候。然ル上ハ勿論御法規ハ固ク相守リ、誓ッテ過誤ヲ再ビセザル様、充分戒心ト注意ヲ払ヒ申可所存ニ有之候。

何卒一日モ速ク、御赦免御救助に与リ、国民ノ一員トシテノ責務ヲ竭シ得サシメ給ハル様、書面ヲ以テ伏シテ歎願奉上候。

(昭和十一年八月)