現在、宗教界に相当問題を提供してゐる新興宗教なるものは、相当の発展性を有してゐるのは何が為であらふか。之全く現代医学が治病力の薄弱である事を、物語ってゐると言ってもいいであらふ。新興宗教の発展はその殆んどが治病である。故に、医学が卓越して、どしどし治病して了ったなら、恐らく新興宗教へ趨る者は絶無となるので、新興宗教全滅は当然な話である。
然るに、病者が罹病の初めは、宗教によって治病されよふとする者は一人もないので悉く医療を受けるのであって、之は社会的常識迄にさへなってゐるのである。然るに凡ゆる医療を施しても治らない。そこで止むを得ず医療以外のものを求めよふとするのは、求むる者の心理を非難する事は出来ないのである。世間よく新興宗教へ走る者を、無茶低級者の如に謂ふが、之は非常な認識不足であって、言ふその人達と雖も病患に罹り容易に治らない結果は、同じ経路をとるのは知れ切った事である。
頗る進歩した如に見えて、その実の伴はない事夥しいのは、恐らく現代医学に勝るものはないであらふ。如何なる人も生命の惜しくないものはない。病気にかかり金は使ひ果し、如何にしても全快しない場合、即ち医療では治る見込がないとなった場合、それ以外の何かを求むるのは、決して無理のない人情である。そうして、それ等の人が新しい宗教へ入信して、奇蹟的に実際治癒する場合が相当ある事は、間違ないのである。
それらの実例をみたり、聞いたりした時、難病者として心を動かすのは、之も亦無理はないのである。そうして、偶々病気治癒されるや、人間の最貴重な生命を恵まれたといふ訳で、その宗教への熱烈な信者となるのも之も亦、当然な帰結であらふ。 此事実によって明かである如く、近時、新興宗教、類似宗教等の発展は、全く医学の治病能力が低いといふ事に帰着するのであるから、此迷信であり、インチキであると無暗に非難した所で、それは反って逆結果になりはしまいかと思ふ位である。
故に、其根本である原因即ち医学で、すべての病人を治癒して了ふといふ其一事あるのみである。それの実現しない限り、恐らく新興宗教の氾濫を防止する事は、絶対出来得ない事を知らねばならないのである。
故に、此理に由ってみるも、新興宗教の発展は、医学がそうさせてゐると言ってもいいので、それ等宗教にとっては、今日の如き、誤謬医学こそ恩恵者であるといふ訳である。
此問題に対して、今一つの有力な原因を言はなくてはならない。それは、現代医療に於ては罹病の時、医療は最初一時的軽快を見せるので、宛かもそれによって治癒されると思ふのであるが、何ぞ量らん、其後に及んで、医療が逆作用となり、反って病勢を悪化させるのである。
然し最初の軽快が、医師も患者の頭脳にも染着いて放れない為、其後に来る悪化にどうしても気が付かないで、飽迄医療を継続する。それが長きに及んで、愈々病勢悪化の度は進むのみであるが、之が現代医療の恐るべき誤謬で、未だ之に気が付かないのである。
此事が新興宗教発展の根本的素因である。何となれば、その信仰によって、治病を受けるから、どうしても医療は一時中止の止むなきに至るからである。病気を増悪させつつあった医療を中止するに於て、忽ち軽快に赴くのは当然である。
それが恰かも、その信仰の御利益によって軽快する様に見えるので、その軽快によって、その信仰によって治癒されるといふ信念が、前途に光明を暗示するから一層軽快の度を増すのである。そこへその信仰の教師、又は仲介的信者が効能を述立てるといふ、種々なる作用も加はるから、病気は益々良くなるのであるが、患者は之を其信仰の対象たる目標神の利益と信ずるのであるが、之が抑々の誤認である。
決して目標神の御利益ではないのである。実は自力が大部分である。何となれば治病の場合、最初から信ずる事を強要する点は、如何なる新宗教も同一である。然るに、最初から信ずるといふ事は虚偽である。何等利益を受けない裡から信じ得る筈がない。それを信じさせよふとする所に不合理がある。
右述べた如く、諸点を考える時、新興宗教の発展は実に、医学の幼稚の為であるといふ事は事実であるから、止むを得ないのである。
（昭和十一年六月六日）