病気などは容易に治る

今日、社会に於る療病法を検討する時、其余りに治病能力のないのに驚くのである。

仮に、盲腸炎、窒扶斯、肺炎位の程度の病気であってさへ、早くて一、二ケ月-長きは半ケ年にも及ぶのが実際である。而も、不幸にして生命を落す者さへあるに到っては、実に驚くの外は無いのである。而も、病気によっては二年三年、又は十年以上に及ぶ者さへ有ると言ふ事実は、驚くよりも歎かざるを得ないのである。

然し、世人は之を常態として何等怪まず-只諦めてゐるといふ果敢(ハカ)ない実状である。私は之等を視る時、現代人が余りに健康を恵まれない事に、悲しまざるを得ないのである。実に上は高位高官を初めとし-社会に相当『名を成す者』、又は天下国家の為-相当の抱負を抱いてゐる者-手腕ある者-大天才ある者等々が割合-働き盛りの年齢で、尠からず死んで行くのを見る毎に、痛歎を禁じ得ないのである。

其他-大志を抱いて病床に呻吟する者、偉才を抱き乍ら、療病生活に懊悩を続けつつある者、後継者を失って自失する者、事業の蹉跌に会ふ者、一家離散する者、財産を蕩尽する者等、夫等不幸者を調査したなら-如何なる多数に上るや量り知れないであらふ。それは-其悉くが容易に病気が治らないといふ、其一点に帰するのである。

私が日々多くの病者を取扱ひつつある、其経験に依れば、如何なる病気も実に容易に治癒されてゆく。難病などといふ言葉は私には無いのであるが、唯然し、割合日数の多くかかるものがある。それは何故であるかといへば、病気が重患であるからではない、実際を言へば-薬剤の毒である。即ち薬剤を多量に服用した者注射療法をされた者等であって、実に薬剤によって血液を溷濁させられ、浄化力薄弱になったが故である。又、其他の原因としては、電気や光線療法によって病膿を固結させたが為である。

故に、忌憚なく言へば、薬剤及び物理療法によって自然治癒力を衰弱させたが為である。要するに、現代医学の治療に災させられたる為であるから、其誤療を訂正するそれに対しての日数がかかるのである。

故に、医療の少ない者程治癒が速かであるのが、実験の結果として瞭かになったのである。

そうして、それは長年に及び多数の患者を扱へば扱ふ程、愈々顕著になってゆくばかりであって、今日は最早一点疑う余地が無い迄に確実になった事である。此様な説を読む世人としては、実に驚愕するであらふし、殊に専門家諸君はより以上驚愕するであらふが、事実は如何する事も出来得ないのである。

故に、此様な説を発表するに於て、医に関係ある多数人士に対しては、実に忍びないのであるから、それが為、長い間如何程躊躇逡巡した事であらふ。然し乍ら、益々社会大衆の病患者激増を目前にして、最早晏如たる能はず、勇を鼓して発表するの余儀なきに到ったのである。

故に、政府者も専門家も一般大衆諸君も、此説に対し、活眼を開いて徹底的に検討され度いのである。此根本が真に明瞭になった暁-病気は治り易いといふ真理を発見する事が出来るのは必然である。

但し、茲に一言言ってをきたい事は、灸治法、掌療法、指圧等、薬剤と物理を応用してない患者は、何れも多少の効果を奏して居る事は認め得らるるのである。

(昭和十一年五月十七日)