大亜細亜全般を我日本の勢力下に包含し終るとすれば、敵に如何なる打撃を与へるかといふに、先づ印度を失へる英国としては国力は半減するであらう。又、米の蘇聯援助も大打撃を蒙るであらうから、盟邦独伊の苦境は茲に全く脱却し、状勢は一変するであらう。
且つ又地中海に対する日本の睨みが加はる以上、弥よ枢軸国の士気は倍加すると共に、敵の士気はそれだけ阻喪するであらう。尚且つ枢軸三国とは地理的に頗る接近する事となるから、共同作戦の上に大なる利益を加へる事も勿論である。 今一つの利益は、印度からの連絡を断たれた蒋介石は、致命的打撃を受ける結果為す所を知らず、屈服か遁走か、何れかの運命でしか無くなるであらう。
右の如く英国が戦力激減によって危殆(キタイ)に瀕する事となる以上、茲に米国は一大援助を為さざるべからず、其結果としてやむなく日本攻撃を第二としなければならない事にならう。
唯だ、茲で最も問題となるのは、右の如き戦略遂行に当って、戦線が延長する毎に、海岸線からの補給にあたり、それを敵が執拗に妨害する事である。従而、之を拝撃する海軍力を如何にするやといふに、勿論理想からいへば制空制海権を得る事である。斯の如き大地域に渉ってのそれは先づ不可能とみなければなるまい。
故に究極する所、航空機、艦船を主とし凡ゆる物資の大増産を以て当らなければならない。然るに私は、現在生産力の二倍に達せしめ得る確実なる方法を知ってゐる。否それを現在産業方面の一部に実験し、予期の成果を挙げつつある事実である。 右の如く二倍増産の目標に接近する事と、戦線延長と平行する以上、目的達成は敢て難事ではないと思ふのである。
そうして補給物資は、いふまでもなく出来得るだけ南方各地の共栄圏に於ける生産を主眼として輸送力を節約する。特に糧食の殆んどは共栄圏に於ての負担は可能であらう。
次に、右の作戦進行期間中の南太平洋及び北太平洋の作戦は如何にすべきやといふに、勿論、敵の本土に対しては一指も染むべからざると共に、わが本土の境界を限り、鉄壁の防備を施すに於て、多少の犠牲は免れ難しとするも、右の大作戦進行に牽制さるる以上、此方面に対する敵の攻撃も、神経戦程度以上には出で難いであらう。
(昭和十六年)