日本式健康法の提唱(一) 一、日本人と白人との相違

今日の医学衛生は凡ゆる点に於て、白人の肉体を基準として研究され来ったのである。処が、日本人と白人とは其根本に於て非常なる差異ある事を知らなければならない。彼は祖先以来、獣肉と麦とを主食とし我は祖先以来野菜と米とを、主食とし今日に至ったのである。

彼は肉体的に優れ、我は精神的に優れてゐる。例へて言へば、同じ小禽であっても、カナリヤと鴬との様なもので、カナリヤは菜と稗と水で健康を保ち、鴬は、魚や虫の如き生餌を多食しなければ、健康を保ってゆけない。獣にしても、馬は、藁と豆で生き、虎や狼は生物を食はなければ、生きて行けない道理である。

次に、もう一つ例へてみやう、茲に、濁った水の中で棲息してゐる鮒がゐるとする。之を見た人間が、余り汚い水だから衛生に悪いだらうと、綺麗な水の中へ入れ換へてやると、豈計(アニハカ)らんや、その鮒は、反って弱ったり死んだりするやうなものである。

人間もそれと同じ事で、祖先以来、其土地に生れ、其処の空気を吸ひその里で収れた穀物魚菜を食って、立派に健康を保ち、長生をして来たのであるから、今更、何を好んで仏蘭西(フランス)のオートミルや諾威(ノルウェー)の鰯や、加奈陀(カナダ)の牛肉の缶詰等を食ふ必要があらうか、是等を深く考へて見る時、もう目が醒めてもいゝ時機になってゐるのではないかと思ふのである。

詰り、人間は其土地に湧いた虫の如うなもので、四辺海で囲まれ、平原の少い我国としては、米魚野菜を食べてをればよい様に、神が定(キ)められたのであって、恰度、大陸の人間が獣肉を食ふべく、自然的条件が具備してゐるのと同じ理由である。

私は拾余年以前に、其事を識ったので、大の肉食党であったのが、魚菜主義に転向した結果、俄然、健康を取戻し、参貫目も目方が増えるし、頭脳は明晰になり、仕事をしても根気が強く、飽きると言ふ事が無くなったのである。もう一つ驚く事は、冬の寒さが肉食時代よりも、ずっと耐へよくなった事で湯婆子(ユタンポ)が無くては寝られなかった者が、冷い寝床へ入って気持よく寝られるといふ様に変った事等は実に意外な事と言はねばならない。以下、各項目に渉って悉(クワ)しく述べる事にする。

(次号には日本式食餌営養法)

(東方の光五号 昭和十年四月八日)