皇道ばやり

皇道の名を冠した団体が最近になって急に殖え出して七十幾つになったと言ふ事で御座る。物の流行といふものゝ迅いのには流石の阿呆も吃驚致したので御座る。皇道何々会にも真面目なのも少しはあるが如何はしいのが山程あるといふ事で御座る。

此インチキ皇道の方は、金廻りのよささうな所を見付けては、脅かし以って、酒の代や媽の褌代を稼ぐのだから、皇道の方で涙をこぼすだらうと思ふので御座る。

先日も或会社の重役室へ行ってたら給仕曰く「社長さん只今皇道屋さんが参りました」といふと、社長どんは目を丸くして「昨日も来たじゃないか」と言へば給仕は「イエ昨日のとは又別の皇道屋さんであります」と言ふやうな場面を見て呆れたので御座る。

そうして之等の皇道屋は旺んに皇室の尊厳を振廻して絶対反対の言へぬやうにして置いてから即々奥の手を出すんだからやりきれぬ、斯ういふ蠅みたいな輩(ヤカラ)へ警察の方でも恐い眼玉を向ける必要があると思ふので御座るが如何で御座る。

(東方の光一号 昭和十年一月二十三日)