今日本の最も悩みである社会悪に就て論じてみよう、その前に為政者や有識者が執ってゐる手段を検討する必要がある。為政者は法規を厳重の上にも厳重にし取締ってゐるが、之等は勿論根本には触れないから、悪人は法規を如何に巧妙に潜るかに専念してゐる。それは法網の隙を狙ひつめ、隙あらば破らうとする。当局は破らせまいと倍々法網を密にし、破る隙を与えないよう努力してゐる。全く善悪の智慧比べである。
処が、前述のような法網を潜る人間は、前科者、ボス、不良等を連想され易いが、事実は決してそんな劣等者ばかりではない。上は大臣から政治家、代議士、官吏、実業界の有名人に至るまで、罪を犯さないものは殆んどないといってもいい位である。只今日犯罪者として表面に浮び出した者は、その中の一部に過ぎないとさえ謂はれるほどで、世間は被検挙者は不運であるからとよくいふが、それ程表面に顕はれない多数の犯罪が蔵されてゐる。
そうして之等犯罪者を深く検討する時、斯ういふ事が言える。彼等は罪を恐れない、国家に損害を与えたり、社会に害毒を流したり、他人を苦しめたりしても良心に恥ずる事を知らない。人を咎める事は知ってゐても、自分を尤める事は知らない。現在国民が納税に苦しんでゐる際、宴会などに馬鹿騒ぎをしてゐるのは役人が多いといふ事は屡々聞く処である。
人間は自身の不正行為に気が咎めなかったり、不純な行為に恥じる心がなかったり、人を苦しめて哀憐の情が起らなかったりするとしたら、それ等は最早人間としての価値を失ってゐる。何程口に高邁な理論を説き、学識を誇ると雖も、それだけでは人間の価値はない。魂のない物質人間である。斯様な人間が今日あまりに多過ぎる為社会悪が瀰漫し、地獄的世相を顕出してゐるのである。一言にして言えば日本全体が重症患者となってゐるともいえる。
以上のような憂うべき現象は何が故であらうか、それは全く吾々が常に言ふ処の唯物主義教育の為である事は、一点の疑を挿むべき余地はあるまい。此故に社会悪絶滅の方法は別に困難ではない、ただ唯物主義思想を打破する事－それだけである。
然らばその方法は何か、言うまでもなく唯心主義教育である。即ち神を認める事である。霊を、霊界の存在を信ずる事である。それが宗教本来の貴重なる使命である。といっても徒らに宗教理論を唱えたり説教やお念仏だけでは神や霊を認識させる事は不可能である。どうしても如実に奇蹟を表はす事であり、顕著な現当利益を与える事であって、それ以外に唯物思想を打破する方法は絶対にないのである。
（光新聞九号 昭和二十四年五月十四日）