古から釈迦に提婆といふ言葉がある。此言葉の起りは彼の釈尊の救ひに対し、提婆なるものが事毎に反対し妨害をするといふのである。之と同様なる事は小にしては個人にもあり大にしては世界にもあるのである。それは、今日戦ひつつある枢軸国に対する反枢軸国のそれの如くであり、之を霊的にいへば神と悪魔の戦である。
私は本医術によって病者を一人でも多く救ひ、国家社会に尽さんとの念願を主として行動する場合、必ずといひたい程反対者や妨害者が表はれるものである。然し乍ら、之等の妨害に遇ふや、一時的多少の影響はあるが、決して挫折はしない。寧ろ信念が増す事は誰も経験する処である。のみならず一方に妨害者が表はれるとするとそれ以上の支援者が必ず現はれるもので、そうなると反って妨害者を怨めなくなるものである。それに就て、私が悪魔と戦った実例中、興味あるもの二三を書いてみよう。
今から十数年前の事である。某資産家のT夫人(四十余歳)の病気を治療し、漸次快方に向ひ、非常に信頼を深めつつあった頃、或日T夫人が午睡をなし夢を見たのである。その時姿は判らないが言葉だけ聞えるのである。それは「お前は近頃岡田を非常に信用してゐるが岡田は良くない人間で、何れはお前の家の財産を捲き上げるやうになるから、今の中に手を切れ」と曰ふのである。それに対し夫人は『私は難病を助けられ、現に日々よくなりつつあるのであるから、岡田先生とは絶対放れない。』と言ふや、彼は「お前が俺の言ふ事を聞かなければ斯うしてやる」といって喉を締めつけたので、その苦しみで眼が醒めたのである。それだけなら普通の夢であるが、茲に驚くべき事があった。それは首を締められる時に、その指の爪が喉の皮膚に強くあたって紅く腫れ上り痛むので、電話で私を呼んだので、早速赴(オモム)いてみると、成程爪で強圧した為の爪の痕がありありと残り、紅く腫れて一見痛そうである。どう見ても現実的に指で強圧したとしか思はれないのである。之によってみても邪神なるものの如何に力があり、恐るべきものであるかといふ事を倩々(ツラツラ)窺はれるのである。 次の例は、廿歳位の某家の令嬢から、朝早く電話で招ばれたので早速赴いてみると、矢張り夢を見たのであるが、その夢とは、半年位前に死亡した或知合の青年が、突然ピストルを妾の心臓目がけて打ったので、その痛さで目が醒めたといふのであるが、目が醒めるや全身が痙れ、歩行が出来ないので、這づって便所へ行ったといふのである。早速私が治療に取掛ると、心臓の附近に血が出てゐるやうな気がするから見てくれといふ、私はそんな事は全然ないと言った。又心臓に弾が入ってるやうな気がして痛いから抜いて呉れといふので、私は指で勿論霊的に弾を取出したので、心臓の苦痛は除れたが、全身の痙れは多少は良くなったが全治はしなかった。私は夕方までには治るからといって帰ったが、その時熟々思ったのは、夢の出来事が、覚醒してまでそのまま苦痛が続いてゐるといふ事実が不思議に堪へなかったのである。
右の原因として考へられる事は、その日の夕方から私の家で座談会を催す約束があったので、邪神がそれに出席出来ないやうに右の如き手段をとったのであると想ったのである。何となれば右の令嬢は私の療法を信頼し、宣伝など熱心な為に邪神から睨まれたのであらう。勿論其晩右の会へ出席したのである。
次は、某海軍大佐N夫人は非常に熱心な本療法の推奨者であった。宣伝など何事を措いても熱心に維(コレ)努めるといふ程であった。勿論二人の御子息と一人の令嬢が本療法によって命拾ひをしたといふ為の感激もあるので、その体験と熱意に動かされない人はない位であった。此様な次第で、N夫人によって本医術を知り、私の所へ訪問する人も時々あったのであるが、不思議な事には某国務大臣の夫人及び某医学博士を連れて来た時であった。此二回とも不思議にも、その晩病気ではなく非常に苦しんだのである。処が二回目に苦しんだ時面白い事があった。それは其時御主人が不在で、御子息と女中が治療に取掛り、二十分位でやや苦痛は薄らいだが、傍に居た十歳になる令嬢が、ふと母親であるN夫人の身体から人頭大位の黒い円形のものが抜け出るのが見えた。「アッお母さんの身体から黒い玉が出た」といふが否や、N夫人の苦痛は去ってケロリとしたのだそうである。私は翌日右の話を聞いて、邪神が苦しめた処、治療によって憑依不可能となり抜け出たのを見たといふ事が判った。
すべて霊が移動する場合、人霊と雖も玉形となるのである。昔から人魂を見る場合、何れも玉形である事は人の知る所である。そうして神霊は光輝を発し、人霊は白色又は薄橙で光輝がなく、悪魔は黒色であるのである。N夫人が二回ともそうなった原因は、その日に連れて来た人は、何れも有力者であるから、邪神として今後そういふ事をさせないやうに懲らそうとした為である事は勿論である。右の三例によってみても、邪神の妨害の恐るべき事を知らるるであらう。
(明日の医術 第三篇 昭和十八年十月二十三日)