霊の種々相

M夫人は最も良い霊媒であって、私に対し尠からぬ収穫を与へたが、その中で参考になる数種の例をかいてみよう。或日、嬰児の霊が憑った。全く嬰児そのままの泣声を出し、その挙動も同様である。私は何故に憑ってきたかを訊いたのであるが、何分嬰児の事とて語る事が出来ない。やむを得ず文字で書けと言った処、拇指で畳へ平仮名で書くのである。それによってみると、生れるや間もなく簀巻(スマキ)にされて川へ放り込まれて溺死し、今日迄無縁になってゐたもので、祀ってくれといふのである。私が承知したので喜んで帰った。右の文字は、霊界の誰かの霊が嬰児の手をとって書かしたのであらう。

次に、或日憑依霊へ対し、何程訊いても更に口を切らないので、私は種々の方法で漸くの事で知り得たのである。それは松の木の霊であって、その前日、その家の主人が当時京橋木挽町にあった農商務省の役人であったので、同省の庭にあった松の木の枝を伐って持帰り、神様へ供へたのであったが、其松に憑依してゐた霊であった。種々の手段を尽して漸く知り得た処は、彼の要求する所は「人の踏まない地面の土の中へ埋めて、祝詞を奏げて貰ひたい」といふので、早速その通りにしてやった。

(明日の医術 第三篇 昭和十八年十月二十三日)