祖霊の戒告

元来祖霊は我子孫に対し、幸福である事を欲するあまり、不幸の原因である過誤や罪悪を行はしめざるやう常に警戒してゐるものである。然るに其子孫が偶々悪魔に魅入(ミイ)られ、天則違反の行為ありたる時、それを戒告する為と、犯した結果としての罪穢の払拭をさせようとするのである。それ等の方法として、病気又は其他の苦痛を与へるのである。之に就て二三の実例によって説明してみよう。

幼児又は小児が、感冒の如き熱性病に罹るとする。普通の浄化作用であれば、本療法によって効果顕著であるに拘はらず、予期の如き効果がない事がある。其場合、特異な症状としては、頻繁な嘔吐である。如何なる食餌を与へても吐瀉(トシャ)してしまふ。従而、衰弱日に加はり、畢に生命を失ふ事になるのである。そうして此症状は、殆んど助かる見込はないといってもいいのである。

之は全く、右に説いた祖霊の戒告であってその原因としては、父親が夫婦の道を紊(ミダ)したる罪による事が多いのであって、世人は此事を知らないのであるが、注意するに於て尠からずある事を知るであらう。全く一時的享楽の為、大切なる愛児の生命をまで犠牲にするといふ事は、国家の為、自己の為、洵に遺憾の極みであるが、之は全く霊的知識がない為である。斯様な場合、祖霊としては一家の主人を犠牲にする事は一家の破滅となるから、止むを得ず子女を犠牲にするのである。

次に、斯ういふ例があった。それは或家庭での事であるが、その家の現戸主である四十才位の男、仏壇があるに拘はらず、それに向って手を合した事がないので、その娘が心配し、右の戸主の弟と相談の上、弟の家に移したのである。然るに、程経て弟は兄の家に赴き、祖先伝来の仏壇を弟に確かに移譲したといふ證明書を書いてくれ--と兄に要求したのである。そこで兄は承諾し、筆をとって紙に書かうとする刹那、突如その手が痙攣を起し舌が吊り、書く事もどうする事も出来なくなったのである。それから一二年間、あらゆる療法を受けても治らない為、私の弟子の所へ治療を求めに来、其際右の娘が語ったといふ事を、弟子から聞いたのである。之は全く祖霊が正統である兄の家から、一時的ならいいが、永久に離れるといふ事は承知が出来ないからそうしたのである。何となれば、右のやうな結果として、将来家系が紊れる事になるからで、家系が紊るれば家が断絶するといふ危険があるからである。次に、世間よく宗教的病気治し又は行者等が、大抵の病気は祖霊の憑依のやうに言ふ事があるが、誤りも甚だしいのである。何となれば、祖霊と雖もその意志感情は、現世の人間と変りはないのであるから、常に子孫を愛し、子孫の為を思ふのは勿論である。従而、子孫の行為の愆(アヤ)まれる場合、戒告等の為、やむに止まれず憑依するのであるといふ事を知るべきである。

(明医三 昭和十八年十月二十三日)