輪廻転生

前項に述べた如く、人間は生き更り死に代り何回でも生れ替ってくるのである。然らば一体、人間死後誰しも往かなければならない霊界とは如何なる処であるか、私の研究によって知り得た事を書いてみよう。

先づ、霊界とは如何なる処か、それは眼にも見えず手にも触るる能はざる非物質即ち虚無であるから、唯物思想に狃(ﾅ)れた一般人には理解され難いのである。彼の釈尊が説いた地獄極楽説やダンテの神曲に於ける地獄、煉獄及び天国篇にある表徴は、霊界の一部を示したものであって、決して荒唐無稽な仮説ではないのである。何となれば、病気や災厄・不幸等のあった場合、その原因が霊界と余りにも関係が多い事であって、如何に唯物的科学によって解釈しようとしても、事実を歪曲せざる限り、合理的説明は不可能である。故に霊的事象に対し、科学的批判をする事－－その事が已に非科学的である。然るに、霊的解釈を下す時、それは事実と何等の矛盾も来さないのであるから、之が真の科学でなくて何であらうと思ふのである。

そうして先づ、霊界とは如何なるものかといふ事であるが、之を一言にしていへば、意志想念の世界であるといへよう。故に、肉体なる物的障碍がないから、現世よりも或点は素晴しい自由がある。それは例へていへば、其霊の意志によって如何なる所へも短時間で行けるのである。彼の神道に於て鎮霊の際「天翔(ｶｹ)り国翔り坐(ﾏ)して、之の宮居に鎮まり座(ﾏ)しませ」といふ事によっても明かなる如く、千里と雖も、数分間にして到達されるのである。そうして此霊の行動の遅速は、霊の階級によって非常に差異があるものである。高級霊即ち神格を得た霊程速かであって、最高級の神霊は一秒の何十分の一よりも速かで、一瞬にして、如何なる遠距離へも達し給ふのである。故に、低級な霊程遅く、最低級の霊に到っては、千里を走るのに数十分を要するのである。それは低級霊ほど汚濁が甚だしいから重いといふ訳である。

次に、霊は想念によって伸縮自在である。故に、一尺位の幅の仏壇の中に数十人否数百人の祖霊が居並ぶ事も出来得るのである。その場合、順序、段階、服装等は頗る厳格であって、悉く相応の秩序が保たれてゐるのである。勿論、仏教にては戒名、神道にては御鏡又は神籬(ﾋﾓﾛｷﾞ)に憑依するのである。

又よく幽霊の有無をいふが、之は勿論実在のものであって、死後短時日の間ほど死霊の霊細胞が濃度であるから、偶々人間の眼に映ずる事がある。彼の基督が復活して昇天した姿が眼に映じたものが相当あったといふ事は別段不思議ではなく、あり得べき事なのである。そうして年月を経るに従ひ浄化され、稀薄になるので、容易に見え難くなるものである。又幽霊は、針のやうな穴からでも出入が出来得るのである。それは肉体なる邪魔物がないからである。

右のやうな点だけで解釈する時、自由主義者などは理想的世界と想ふであらうが、そうはゆかないのである。それはどういふ訳かといふと、厳然たる法則があって、その法則によって自由が制限されるからである。

私は、今も生きてゐる宗教界の或有名な人の著書の中に斯ういふ事が書いてあった。それは「人間は死後、霊が滅消してしまふので霊の存続や霊界などはあるものではない。何故なれば、もしそうであるとすれば、昔から死んだ人は何億あるか分らないから、死後、霊魂が存続するとしたら、霊界は満員にならなければならない」－－といふのである。此人などは偉い人ではあるが、霊魂の伸縮自在といふ事を知らないのである。

（明日の医術　第三篇　昭和十八年十月二十三日）