日本人の優秀性

近来、日本人の優秀性といふ事が漸く喧伝(ケンデン)されて来たのは喜ぶべき事である。而も全世界殊に敵国たるアメリカに於てさへ、日本研究熱が興って来たといふ事は、勿論大東亜戦に於ける赫々たる戦果に刺戟された事とはいひ乍ら、全く時の力の然らしむる処である。

私は、十数年前から日本人の優秀性に就て機会ある毎に言説したものである。然らば、その優秀性であるといふ理由は如何なる訳かといふに、それは左の如き確固たる根拠があるからである。

造物主が凡ゆる生物を造り、最後に人間を造ったといふ事は、前項に説いた通りである。然らば、人間を造るに当って、その順序はどうであるかといふに、それは先づ野蛮人を造り、次に白人を、次に東洋人を造り、最後に造られたのが日本人である事は言ふ迄もない。彼の埃及(エジプト)が七千年の歴史を有し、支那が五千年の歴史を有するに拘はらず、日本が二千有余年であるといふ事は、右の理由によって、日本の開発が遅れたのではないかと想ふのである。

然し乍ら、私の此推測を以てあまりに短見と観るかもしれない。何となれば此地球に於ける人類の発生は、何万年何十万年或は何百万年以前かも知れないのに、僅々数千年間の歴史によるなどとは問題とするに足りないといふかも知れないがそれに対し私は言ふのである。それは仮令何百万年の長期間であっても、野蛮未開であって、人文の発達も交通もあり得なかった時代は、歴史無きに等しいわけである。然るに、世界の人類は、数千年前に到って初めて文化の緒につき、それから急速なる発達を遂げたとすれば、其時からが人類としての歴史が始ったといふべきであらうからである。 私は曩に説いた如く、最後に造られたものほど優秀であるといった理由と同様の意味に於て、最後に造られたる日本人の優秀性は当然であらう。それは既成人種すべての特徴を包含されてゐるからである。

右の證左として日本民族の特性は、凡ゆる点に通暁するといふ事で、之は誰も知る処である。宗教思想方面に於ても、古来、他民族の宗教や思想が如何に侵入すると雖も、それに同化される事なく、何時しかそれを同化して了って独自のものとする。故に、恐らく日本位、宗教の種類の多い国はないであらう。又政治、経済、教育は固より、軍事方面に於ても世界各国の長を採り、粋を鍾(アツ)めて綽々(シャクシャク)としてゐる。其他衣食住に於てもそうであり、芸術方面に於てもそうである。これを或人等は、日本人の生活があまりに複雑多岐であるといって嘆くのであるが、実は、優秀民族たる所以を表はしてゐる事を知らないからである。

又私は、人間以外の動物は単一性であるとも言ったが、それが下等動物になるほどより単一である。之を判別する方法としては、音声による事が最もいいのである。即ち下等動物になる程音声が単純であるといふ事である。此意味に於て世界の人種中、日本人程音声の種類が多いのはないのである。即ち父音五十母音二十五の七十五声を完全に発するばかりか、発音に不純不正がない。然るに、それが日本以外の亜細亜民族の言語が日本語よりも少く、英語に至っては四十余音であるにみても明かである。 又先年、慶応大学医学部に於て、日本人と西洋人の血液を試験した事があるが其時の結果によれば、西洋人の血液を猿に注射した所中毒を起さなかったが、日本人の血液は中毒を起したそうである。之によってみれば、西洋人の血液は、日本人よりも猿とあまり隔りのない事が実證された訳である。

又、日本人が人間としての最優秀性であるといふ事の将来性を知らねばならない。蓋しそれは、全世界各民族を統治すべき天賦の使命を有してゐるからである。何となれば、各民族それぞれが、日本の統治下に悦服するといふ事は、大御稜威に仗(ヨ)る事は申すまでもないが、亦各民族に対し、適応すべき政策が行はれなければならないからである。それは各民族の特性を知る事で、綜合性である日本人にして初めて可能であるといふ訳である。

次に、之は別の方面であるが、私は鉱物学に就ても、長い間実地に研究してゐる。その結果現在の鉱物学は、非常な誤謬に陥ってゐる事を知ったのである。然し乍ら、茲処では詳説し難いから、必要な点を簡単に説く事にするが、私の研究によれば、今日の学問では鉱物発生の原理は、地震等によって岩石に亀裂を生じ、その間隙に岩漿が充填して、そこに鉱物が発生するといふ事になってゐる。然るに、私の説に於ては、それは物質の硬化作用によるのである。即ち土壌が硬化して岩石となり、岩石が硬化して劣等金属が発生し、劣等金属が硬化して貴金属又は稀金属が発生するのである。故に白金又はダイヤモンド等の如きは、硬化の極度に達した物質である。ダイヤモンドは阿弗利加が産地であるといふ事は、右の土地が早く造られたからであり、白金は西比利亜が産地であるといふ事も同様の意味である。故に、右の如き鉱物が日本にないといふ事にみても、日本が最後に造られた、新らしい国土といふ事になるのである。

此事は、日本人が最後に造られたる人種であるといふ事と、よく合致してゐると想ふのである。

(明日の医術 第三篇 昭和十八年十月二十三日)