蘇聯の意図

最近満蒙国境に於て、急に積極的活動に移った、蘇聯の軍事的意図が、奈辺にあるかに就て、政府初め多くの識者は、了解に苦しんでゐる様である。之に就て、吾人の見解を述べてみたひのである。

彼が近き将来に日本との戦ひによって、事を決しやうとする意図は、充分看取されるのであって恐らく其時機としては、シベリヤ鉄道の現在の復線と、今一つのバム鉄道の完成期であってそれが第二次五ケ年計画完成の暁であらう。

然し彼が策戦計画としては、其前先づ日本軍隊を出来るだけ、満洲へ、牽制的に、終結させる必要があらう、そうして日本国内をより手薄にして、俄然、事を起すのではないかと思ふのである、そうして、其の時の攻撃こそは、頗る多数の飛行機による爆撃であらふ事である、それは、過般、外国新聞記者に豪語した、スターリンの言葉によって、想像され得るのである。

併して蘇聯軍事費の、急激なる膨脹は、驚くべき数字を示してゐる、我陸軍省の報告によれば、一九三四年度、約十八億留(ルーブル)であったものが、僅か二ケ年後の今年は百四十八億留との事である。実に一昨年に比し、約十倍に垂んとしてゐる。又最近蘇聯陸軍長官の言明によれば、極東方面に於る軍備は、略(ホボ)完成したといふ事であって其現れとしての彼が最近の積極的行動であらう事は肯けるのである。

彼が現在、極東に配置せる兵員は二拾数万であるといふ、それが今後、挑戦的活動を持続するとすれば、我方も、尠くとも十万の兵数は満洲へ、移動させなければなるまい、然し乍ら、彼が策戦上日本国内を手薄にする計画で、あるとしたら、それに適応すべき対策を立てなければならないと思ふのである。

(昭和十一年四月十一日)