二一、小児病 脱腸

此病気も小児には多いのであるが、老人にも会々あるのである。そうして此病気は、人により軽重が甚だしく、軽症に於ては、成人するに従ひ自然治癒するが、重症は治癒が困難で、医療に於ては手術をなし、軽症は脱腸帯を使用させるのである。此病気の原因は腹膜部に於ける局部的毒素溜結が腸を圧迫する為逸脱するか又は恥骨の左右の竇(アナ)の何れかの方が先天的大きい場合発るのである。

重症に於ては、男子は腸の垂下が睾丸に迄及ぶので、そういふのは治癒が困難である。此病気の手術は多くは結果良好であるから、私としても手術を推奨する事もある。そうして本療法に於ては、腹膜の毒素溜結を溶解し腸の活動を旺盛にさせるのであるから、相当の時日を要するが、殆んど治癒するのである。又脱腸帯は相当の効果がある。

其他の小児病としては、湿疹、皮膚病、頭瘡、顔面瘡等もあるが、之等も自然治癒が最も確実である。特に顔面瘡の場合、眼球を犯され、甚しきは盲目となるかと疑はるる程のものもあるが、之等も自然によって完全に治癒するのである。

又、生れて間もなく嬰児が急に食欲減退すると共に嘔吐をする事がある。そうして嘔吐の際血液が混じてゐる事がある。之は如何なる原因かといふと、嬰児が母体から出生の際古血を飲下し、それが時を経て排泄されるのであるから、全部排泄さるれば平常の如くなるのである。然るに、原因を知らない医師も母親も、病的吐血と誤解し、愕くのであるが之は心得ておくべきである。

其他の症状としては、不機嫌、不眠、憤(ムズ)かり、脳膜炎等であるが、之は曩に述べたから略する。以前私が経験した病気に面白いのがあった。それは抱くと必ず泣くといふ嬰児である。それはよく診査すると、肋間神経痛があったので、抱くとそこを圧迫するから痛む。それで泣くのであった。故に、其部を治療するや忽ち全治したのであった。

小児麻痺も多い病気であるが、之は霊的原因であるから、後篇に詳しく説く事とする。

ヂフテリヤも右と同様であるから後篇に譲る事とする。

次に、小児の便通に対しよく潅腸を行ふが之は大いに不可である。潅腸の結果、逆作用を起し、便秘する事になる。便秘するから、潅腸を行ふ。潅腸を行ふから便秘するといふやうになるので、之等も、反自然の為である。爰に面白い事は、潅腸に因る便秘は、肛門の口許が秘結する事で、此事によってみても、潅腸の為の秘結がよく判るのである。人間は生れながらにして、自然便通があるべく造られてあるのであるから、潅腸などの必要はないのである。もし潅腸をしなければ便通がないとしたなら、昔の小児はどうであったらうか。昔の小児は便秘であったといふ事を誰も聞いた者はあるまい。全く、現代医学の理念は解するに苦しむのである。

私は、幾人もの腹部が腹膜炎の如く膨大した児童を扱った事がある。それは生後間もない時から、潅腸によって便通をつけ、それが癖になって、潅腸を行はなければ絶対に便通がないといふやうになり、其結果漸次、腹部が膨大したのである。そうして、潅腸によって便通をつければ幾分縮小するがそうでないと膨大するのである。これによってみても、如何に潅腸が有害であるかを知るであらう。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)