鍼灸療法

近来、一時頽(ｽﾀ)れたかにみえた灸療法が復活し、相当の流行を見るに至った事は周知の事実である。之は全く西洋医学の無力に起因する事は勿論であるが、之に就て私は説明してみよう。之は病原である毒素溜結に対し、皮膚の火傷によって毒素を誘導するのである。丁度、火傷の際、そこに膿が集溜するのと同一の理であって、大きな火傷はその苦痛と、治癒してから醜痕が残るので、分散的に小火傷を数多くさせる訳であるから、毒素もその小火傷へ分散的に集溜するので、一時的軽快するのである。故に、時日を経るに従ひ、再び毒素は還元するから、灸は据(ｽ)え始めたら毎月又は一年に何回といふやうに持続しなければならないといふのは、右の理に由るからである。然し、薬剤と異ひ、中毒は残らないから健康には差閊へないが、施術の際の苦痛は勿論、茲に見逃す事の出来ない事は、皮膚に醜痕を残す事である。元来人間は、造物主の最傑作品で、美の極致であるといってもいいのである。特に女性の如きは、その皮膚の美を讃へ、日本に於ては玉の膚ともいひ、泰西に於ては女性の裸体が最高の美とされてゐるにみても知らるるのである。それに対して、人為的に火傷の痕をつくるといふ事は、皮膚の不具者となる事であって、神に対し、冒涜(ﾎﾞｳﾄｸ)の罪は免れまいと思ふのである。

次に鍼療法なるものは、血管を傷つけ、内出血をさせ、其凝血によって、一時的浄化作用停止を行ふものであるから、根治療法ではないのである。

（明日の医術　第二篇　昭和十七年九月二十八日）