下痢は最も多い症状であるが、先づ急性と慢性とに区別される。急性は、飲食物による中毒即ち“食あたり”が多いのである。世間よく、寝冷によって起るといふが、之は殆んど誤りで、冷によって下痢をするといふ事は極稀である。食あたりの下痢の際、薬剤等によって止めようとするが、之は不可であって、自然に排泄させるのが本当である。
次に、急性下痢症に、食あたり以外に、俄然として起る頗る猛烈な下痢がある。これは一日十回以上、甚だしきは数十回に及ぶものさへあって、罕(マレ)には度数をかぞへられぬ程で患者が意識出来ない程、水便を漏すものさへある。そうして血液が混入して腐肉が下るかと想はれるやうな下痢もあるが、之等は悉く膿や毒血の凝結したものが、猛烈な浄化作用によって排泄されるので、決して肉や臓器の一片だも排泄せられるのではないのである。斯ういふ猛烈な下痢は、老人には殆んどなく青少年に限るといってもいいのであるから、旺盛なる浄化作用である事は明かである。故に、放置しておけば必ず治癒するのである。然るに、之等猛烈な下痢の場合、医家も患者も非常に恐怖し、停止せしめようとする。然るに停止療法を行へば悪化するのが当然であって、其為、死を招く惧れさへあるから注意すべきである。
次に、慢性下痢があり、それが数ケ月乃至数ケ年に及ぶものさへある。医家は多くは、結核性となし、怖れて停止療法を行ふが、之も非常な誤りで、事実は、腹膜に溜結せる膿が、緩慢な浄化作用によって僅かづつ溶解され、下痢となって排泄せられるのである。此膿は、腎臓萎縮による尿毒が、常に腹膜へ集溜するのであるから、腎臓を健全にしなくては、完全に治癒され得ないのは勿論である。然し乍ら、非常に長年月放置しておけば、腎臓萎縮が自然に治癒されるので、腹膜も治癒され下痢も無くなるのである。
(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)