浮腫及び盗汗

浮腫(ムクミ)は、其原因として二種ある。それは、腎臓及び膀胱の支障である。そうして腎臓が原因の場合は、腎臓疾患の説明中にある如く腎臓萎縮に因る余剰尿が原因であって、軽きは局部的、重症は全身的に及ぶのである。

又、浮腫が左右孰れかに特に多い場合がある。それは、浮腫の多い部の腎臓が萎縮してゐるのである。そうして浮腫の殆んどは、腎臓萎縮が原因であるが、稀には膀胱が原因である事もある。それは輸尿管末又は膀胱から尿が尿道へ通過の口許に粒状膿結が閊(ツカ)える場合、尿の通流に支障を来し、浮腫の原因となる事がある。然し何れにせよ両者共、毒素溜結を溶解するに於て、容易に而も完全に治癒さるるのである。 茲に面白いのは慢性浮腫である。之は急性は直ちに判明するが、慢性に到っては不知不識の間に溜るので、医家は勿論、本人さへ気がつかないのである。そうして慢性浮腫は、漸次的に数年又は数十年に及んで、皮下に凝結するのであって、肥満した人に最も多いので、斯の如き人は、病的肥満であるから、常に故障が起り易いのである。それに就て斯ういふ滑稽な事があった。それは、女学生で非常に肥満し而も固肥りで、一見体格優良者にみえるので、学校医健康診断の結果、其県下に於ける模範健康者三人の中に選ばれたのであった。然るに、偶々胸部に痛みが発生し全身的重倦く、腹部が脹り、腰が重いといふので私の処へ来た。診査してみた所、驚くべし、前述の如き全身的浮腫の凝結した肥満なのであった。それで治療の結果急激に尿量が増し、体重二貫目以上減じて、真の健康になったのである。斯様な症状は相当多いのであるから、健康そうにみえる体格の持主と雖も大いに注意すべきである。又、浮腫の患者であっても、尿に蛋白のない場合、医家は、原因は腎臓でなく心臓にあるといふが、之は馬鹿々々しい程の誤りであって、心臓は尿とは関係がないのである。之等は蛋白のみによって腎臓病の有無を診断する為であって、無蛋白腎臓病の存在を知らないからである。

次に、盗汗は、医学の解釈では、衰弱の為としてあるが、之も全然反対である。即ち、浄化作用旺盛の結果であるから、盗汗のない患者も、治療するに於て盗汗がおこり、それから恢復に向ふに鑑ても、浄化作用である事は事実である。又、老人には少く、青壮年に多いにみても右の理は瞭かである。

序でであるから、発汗に就て述べてみよう。大体健康者程発汗が多いのであって弱体者は少ないか又は全然ないのが普通である。然るに局部的発汗者がある。こういふ人は大抵右か左の一方的であって、それはその側の腎臓が萎縮してゐるのである。それが為、常に軽微な尿毒がその部に集溜する。それが汗となって排泄せらるるのである。又、発汗すべき理由がなく不用意に発汗する人があるが、之も右と同様の原因で、病的であるのである。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)