不快感及び嘔吐

爰に、不快感といっても種々あって、其症状は一定してゐないのであるが、重なる症状を記せば、嘔気(ハキケ)、痙攣、悪寒、船車の酔、朦朧感、焦燥感等であらう。そうして最も多いのは嘔気であらう。此症状は、原因としては脳貧血に因る胃の反射作用と、高熱、食物中毒及び薬剤中毒、溜飲、幽門狭窄(ユウモンキョウサク)等である。

右の内、最初の三つは説明の要はあるまいから、後の三つに就て説明してみよう。即ち薬剤中毒に因る嘔気は、薬液が胃の粘膜から一旦吸収されて、胃の周囲に浸潤滞溜したものが、時日を経て毒素となって胃に還元し、胃中に凝結する。それが浄化作用によって溶解し、嘔気を催し嘔吐するのである。其際嘔吐の液が服用した薬剤の臭ひがするのである。

次に、溜飲は胆汁の排泄であるが、之は、不断に胃中に流入しつつある胆汁が、食物の停滞又は薬剤の妨害に遇って、消化を援けるといふ役目に支障を来し、排泄嘔吐するのである。

次に、幽門狭窄に因る嘔吐は、胃によって消化されたものが腸に流下する場合、狭窄の為通過し難いので、逆に上方に戻らうとする。それが嘔気となるのである。故に、此症状は固形物は不可であるが、流動物なら嘔気が起らないにみて瞭かである。それは、幽門狭窄に因る流下孔が狭くとも、流動物なら通過するからである。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)