心霊現象叢談 幽霊の話(三)

心霊現象叢談(三)

幽界の霊魂が、吾々現界人と談話を交換したり、また、自働書記を通して、その意志を表現する実例は前二回の叙述によってお判りになられたことと思いますが、一九二三年英国の霊媒スタァ・トラヴァース・スミス夫人に文豪故オスカー・ワイルドの霊魂がかかって来たとき、その署名は、ワイルドの生前の筆蹟と寸豪もかわらぬものであったと言う。かかる霊界の通信に接する時、何人も、それが自働書記霊媒の潜在意識であるとは見られないでしょう。

幽霊の正体見たり枯尾花

この句は、幽霊を否定した意味をあらわすものとして有名でありますが、幽霊を見たと言う話は、昔から語り伝えて、東洋にも、西洋にもその例洵に多いのであります。加之、過去八、九十年前より、漸次発達した心霊現象研究の結果、幽霊の姿を実際に見ることが出来る実験に成功して、その発表の数は非常に多くにのぼっています。

死んで肉体を分離して幽体だけとなって、霊界の下層部たる幽界に居住しておる者が、霊媒その他から、エクトプラズム―物質と非物質との中間的なものとされています―をとって、自己の幽体を濃厚化したのが一般に言う幽霊で、これは吾等の目で見ることが出来るのであります。また普通一般の人の目には見えないが、霊眼者には見ることの出来るものや、写真に撮影されるものもあります。

殊に驚くべきは、一八二七年五月某日、グラスゴー市で催された心霊実験会に於て、一婦人の幽霊が現われた時、その幽霊のつけていた衣服の一部を切り取ることに成功したことで、それは現に、グラスゴー神霊教会長マッキンドー氏の手許に保存されてあり、複写したものが、東京都世田ケ谷区太子堂町三四一、心霊科学研究会から会員に頒布されており、蜘蛛の巣に近い繊細なもののようであります。

更に故浅野和三郎氏の欧米心霊行脚録には、幽界人の指紋をとることに成功した記録がのせられてあります。次にその大要を転載させてもらうことにします。

此の指紋作製現象は、マージェリーの霊媒現象中、最も大切なものであるのみならず、世界の心霊実験中独一無二のもので近代心霊史上に一新記録を作るのであります。マージェリーの亡兄ウォルターの霊魂が、歯科医の用いる蝋に、その拇指の指紋を残す事を始めたのは、一九二六年の八月からでありました。そのウォルターの指紋と、霊媒その他立会人の指紋とを比較して見ますと、悉く相違して居りますが、只血族関係あるマージェリーとは、四割五分ほど類似し、又その母親とは、七割ほど類似して居ることを発見します。これは指紋学上普通の事柄だと言います。

ところで、此のウォルターの霊魂によって作製された指紋はウォルター生前の指紋と全然同一であるという破天荒の事実が立証されるに至ったのであります。一九一二年、ウォルターが最後の汽車旅行に出掛けるに当り、彼は自分の剃刀で髭を剃りました。その剃刀はそのままサックに収められ、爾来何人の手にも触るることなしに、トランクの内に格納されて居りましたが、一九二七年五月、ウォルターの母親がそれを取出し、専門家に依んで指紋を撮らせますと、其柄にウォルターの指紋が付いて居ったのであります。生前ウォルターが剃刀の柄に残した指紋と、現在ウォルターの霊魂と名のる者が、ドシドシ蝋の上に印する指紋とが、ピタリと一致して居るのですから、大変なのであります。因みに、ウォルターの指紋の鑑定に当ったのはワシントン、ボストン、ベルリン、ミューニッヒ、ヴィエアの諸警察、並にロンドンのスコットランド・ヤード等で、何れも証明書が来て居るのであります。

その指紋作製現象の実験は、一九二八年一一月一八日午後九時から始まり、約一五分間で終りました。実験を助けて立会ってくれたのは、ボストンのブラウン博士でした。三箇の蠟塊に記号を付けて、ポケットに納め、実験室に入りました。卓上には、蝋を軟げる為めの熱湯、並に後で蝋を固める為めの冷水を準備し、二箇の丼を置きました。

赤灯の下で、マージェリーが入神状態に入ると同時に、ウォルターの声が空中に起り、実験に関する注意を与えました。私は其注意に従いポケットから蠟を出して、熱湯を充せる丼の内に入れました。一分間許で蠟が相当軟かになるのを見計らい、ウォルター自から之を湯の中から取り出し、卓子上で拇指の指紋を作った上で、今度はウォルター自から之を冷水に入れる。そうした作業の際に、物質化せる彼の指端が、赤灯の光で白く見えました。やがて「モウ大概固ったようだ」と言い乍ら、彼自ら冷水の丼から蝋を取り出して、私に渡してくれました。同一事を三回繰り返したのですが、最後の時には、湯が少し冷め加減なので、蝋が充分に融けず「固いから二つ押して置く」と言ってグイグイと二度ほど拇指を押しつけました。

万事が極めて事務的で、死者の霊魂の作業というよりか、寧ろ一人の気軽な青年が、作業をしているような感じでした。この間私達が、霊媒の左右の手を固く把握して居たことは申すまでもありません。

実験後に、右の指紋の検査を、ハーパード大学のロージャース博士に依んだところ、同教授は検鏡の結果、全くウォルター生前の指紋に相違なき旨を証言されました。因みに今の三箇の蠟の指紋は、私が携帯して帰りました……云々。

(地上天国十二号 昭和二十五年一月二十日)