痛苦

痛苦即ち痛みなるものは如何なる訳であるかといふに、前にも述べた如く浄化作用の発熱によって凝結毒素が溶解され、液体となった毒素が、何れかに出口を求めて、その方向に進まんとするその運動が、筋肉の神経を刺戟する。-それが普通の痛みの原因である。以上のやうな痛みの症状は、盲腸炎、急性腹膜炎、急性腎臓炎、頭痛、歯痛、中耳炎、リョウマチス、各種神経痛等、実に多種多様である。又、骨膜炎と名付けられてゐる骨に関する痛みの原因は、骨膜に凝結した毒素が浄化によって溶解し、それが移動する場合、骨膜から筋肉へ進み刺戟するのである。

又、骨膜の裏面にある毒結が、浄化溶解して表面へ進出せんとして、骨そのものに極微な穿孔をする。その竇(アナ)の数は毒素の量によって多少があるのである。勿論、その数の多いほど激痛である。肋骨カリヱス、中耳炎、歯痛等其他骨髄炎といはれるものはそれである。此無数の穿孔ある場合、医家は骨が腐るといふのであるが、それは誤りである。何となれば、毒素が溶解除去された後は、旧(モト)通り完全になるからである。次に、特殊の痛み、例えば、手指の 疽(ヒョウソ)、足指と其附近に於ける脱疽の痛み、痔瘻等の痛みは勿論、浄化作用による毒結の排泄であるが、之等は非常に猛毒であるから激痛である。之は第一浄化作用を俟たずに、第一、第二、両浄化作用が同時に起るのであるから、浄化力旺盛な青年期に多いのである。之等の病気に対して、医家は漸次隣接部に移行腐敗するといふが、之も全然誤診である。私の多数の経験によれば、或程度毒素が集溜すれば、それ以上増大する事は決してないのである。そうして、充分集溜腫脹して自然穿孔され、そこから膿汁毒血が排泄されて完全に治癒するのである。然し乍ら、その症状は一見腐敗する如く見ゆるので、医学に於ては、腐敗すると誤ったのであらうが、その為に切開手術を行ひ、一種の不具者になるのである。繰返していふが、私の永年の経験によって、脱疽と 疽(ヒョウソ)は、腐敗はしない事をここに改めて断言しておくのである。

次に、胃痙攣の痛みは別であって、之は、胃病の部で説いてあるから、此所では略しておく。其他、火傷や負傷等もあるが、之は病気ではないから、時日の経過によって、必ず自然に治癒するものである。もし痛みが永続するか、治癒しない場合は、その原因は消毒薬等の為であるから、薬剤を廃して、患部を清水に洗ふだけで自然治癒するのである。

右の如く、病気による痛苦には多種多様あるのであるが、その原因の殆んどが薬毒の為である。薬毒の種類によって、痛みや症状が異ふのである。そうして私の経験によれば、漢方薬は広範囲である事と鈍痛が特色であり、洋薬は多く鋭痛で、稲妻型、針刺型、錐揉(キリモミ)型等が多く、又局部的であるのが、特異性とでもいふべきである。特に、注射の薬毒は激痛の原因となることが往々あるのである。

次に、薬毒以外尿毒の痛みもあるが、之は多く軽痛である。又、然毒は殆んど痛みがないので、医学は先天性黴毒と思ひ誤ったのであらう。

(明日の医術 第二篇 昭和十七年九月二十八日)