一ケ年百万人を突破する結核患者と、拾二万人の死亡者を出しつつある肺結核に就て、官民共に汲々たるに係はらず、所期の効果を挙げ得ないばかりか、寧ろ増加の傾向さへあるといふに至っては、国家の前途に対し、実に寒心の外はないのである。最近の東京府社会局の調査によれば、都会小学児童の四割は、結核感染者であるといひ、又、某女学校の生徒を診査した所が、其二十何パーセントが微熱保有者であるといふのである。勿論、微熱保有者は、結核が発病してゐるからであって、未だ微熱迄に至らない潜伏状態にある者も、仮に其同数と見て、先づ五十パーセントは結核患者と見て差支えないであらふし、結核の最も発病し易いのは二拾歳前後であるに於て、女学校卒業後が更に危険である訳である。
斯の如き事実から類推するに於て、次代の国民の半数以上は結核感染者になる訳であるから、之は如何なる事よりも実に国家的最大の問題である。寔に健康の大非常時である。
然るに之が解決策として、政府が今現に行ひつつある方法は、果して適切有効であらふ乎。吾人は遺憾乍ら否と言はざるを得ないのである。それは、当局に罪が有るのではない。現代医学で喰止める力よりも、病気蔓延の勢の方が優ってゐるからである。そうして、其方策としては、病菌感染予防の消極的方法のみを唯一としてゐる事である。之等は吾人の毎度言ふ通り、今日の社会生活に於て病菌に侵されまいとする事は絶対不可能である。其余りに病菌感染の機会が多過ぎるからである。
故に、病菌に侵されない程の健康肉体であるのが理想的であり、積極的防止である事は勿論であって、近来小学校などでは、児童に肝油や牛乳を飲ませ、又、レントゲンや太陽燈等を設備するといふ事を聞くが、夫等は洵に姑息な膏薬張的方法でしかないのである。
弱体児童といふ事は、結核保菌者といふ事であり、所謂、腺病質児童である。是等の児童が四割も有っては、残数が感染しまいとするのは困難であらふ。と言って、結核児童のみの学校を造るとすれば、小学校の四割が結核学校になって了ふから、実際上由々しき問題であらふ。
此困難なる問題に対して、其根本解決策を吾人は有してゐる事である。それを言ふ前に、如何にして斯くも大多数の弱体児童が続出するかといふ、其原因を検討するのが順序である。それは、日本人と西洋人の体質を同一であるとする事の誤謬が抑々の原因である。それは、牛乳を多用する事と、妊婦の肉食及び姙婦と生児の薬剤服用である。何となれば、それは、薬剤に病気治癒の性能があるとすれば、其性能こそは実は毒素である。漢方医家のいふ薬剤で病気を治癒するといふ事は、実は毒を以て毒を制するのであるとは、実に至言である。之が為に、薬剤の余毒と牛乳と獣肉に含有する獣血の毒素分とが、不知不識血液を溷濁さして了ふ事である。それが人体の自然浄化作用によって残渣汚血となり、汚血の再浄化が膿汁であるから、それ等毒素が頸部附近、即ち耳下腺、淋巴腺、扁桃腺及び肺尖附近に溜結するのである。吾人が幾千人に上る弱体児童を診査するに於て、其悉くが右の症状を呈するのである。読者よ、試みに夫等児童の頸部附近を指頭で探査するに於て、必ず大中小のグリグリを発見するであらふ。そうして、指頭で圧すれば、可成りの痛みを訴えるのである。
今一つの原因として、種痘によって陰性化して、肉体に残存せる相当量の天然痘毒素である。之が又、他の毒素と協同作用によって、援助するといふ一事である。 右述べた如き、二大原因が弱体児童たらしめるのであるから、此二大原因へ対して、それを軽減する消極的手段と、及び其毒素の溜結を消滅すべき積極的手段との二つが此問題を解決し得るといふ事を認識しなければならない。
其方法としては、消極的には、姙娠中肉食を避ける事と、出産後、母乳不足の場合は牛乳のみでなく、牛乳と重湯(米搗米)半々位が最も良いのであって、之は私が多年の実験上、良成績を挙げてゐるのである。又、附け加えたい事は、獣肉多食の姙婦は流産と乳不足の多い事も否めない事実である。唯然し、陰性天然痘毒素は、他の方法によって除去するより外に致方ないのである。
次に、積極的方法としては、私が創始した指圧浄化療法である。之によれば、短時日にして解溶消滅するのである。其結果として、溜結は消滅し、微熱は去り、食欲は増進し、頬は紅潮を呈し、体重を増し、元気溌刺として、全く見違える程の健康児童となるのである。甚だ自画自讃ではあるが、今日、弱体児童をして健康児童に、而も短期に転換せしめる方法は、右の療法以外、他には絶対無いであらふ事を断言するのである。
(新日本医術書 昭和十一年四月十三日)