二、 方法と原理

今、療術を施さんとする時、術者は患者に膝を触るる位接近すべし。先づ初め、拍手を三つ、音のせぬ位、軽く打ち、人に聞えぬ位の声にて、「惟神霊幸倍坐世」を二回唱え、左手を、患者の右肩へ軽く当て、患者の頭を少し下げしめ、右手の人指指(ヒトサシユビ)を以て、其頭脳の中心に、「此者清まれ」と三度、空中へ文字を書くべし。書くが否や直ちに、口先にてフーッフーッフーッと二三度息を吹き掛け、直ちに右手を開いたまま、頭上一寸位の空中を、出来る丈早く左右に擦(コス)りながら、度々息を吹きかける。此時間一分位にてよし。

最初に、之を行ふ訳は、元来、人間の四肢五体の根元は頭脳にあり、凡ゆる肉体の病原の中府とも謂ふべき所なるを以て、先づ、之を清めて取掛るのである。次に、患者に苦痛の個所、経過等、成可く詳細に訊ね、之に依って病原を指頭を以て探り当てるのである。病原を発見すると同時に其場所へ向って治療を施すのである。

治療の原則としては、最初、患部へ向って、右の人指指を以て、「此中清まれ」と三回書くのである。頭脳の時と同じく、掌を迅速に摩擦する如く動かすのである。斯の如く、三回繰返し、直ちに指頭を患部に当て、軽く指頭に霊を集中させ、病原を解かす如き心持を以て、軽圧するのであるが、無論、刻々、息にて塵埃を吹き払ふ如く、治療中何回となく、行へばいいのである。之を繰返す裡に、病原(大多数は水膿溜結)は、必ず多少は溶解するので、溶解した丈は、患者は、軽快を感じて来るのである。然し、右は、原則を示したるにて、実際は、適宜、取捨按配して宜しいので、場合に依り、掌を利用してもいいのである。摩擦する場合、皮膚に触れても触れなくても、効果は同一である。

最初、療術せんとする時、観音力の御守りを首に懸けるべし。此御守りこそ、無限に発揮する、観音力の本源にして、是耳(ノミ)は科学にても、人智にても説く能はざる不可思議なるものである。否、説くと雖も、余程、智慧、證覚の発達した人でないと判りかけが出来ないのである。

治療する場合、此御守りより出づる観音力が、霊光となって、術者の指頭及び掌より放出滲透するのである。

(日本医術講義録 昭和十年)