正邪の戦

昔から釈迦に提婆といふ事があるが、私といへども断えず提婆と戦ってゐる。それに就て二三の例を挙げてみよう。

其頃某資産家のTといふ四十余歳の夫人、長い病気が、私によって漸次快方に赴いた時である。或日電話で『すぐに来て呉れ』との事で早速行った処、T夫人曰く『今日午睡してゐると夢を見た。その姿は判らないが、言葉だけは聞える。『お前は近頃岡田を非常に信用してゐるが、岡田は善くない人間で、何れはお前の家の財産を捲き上げるやうになるから、今のうちに手を切れ』といふのである。夫人は『私は岡田先生に難病を治して貰ひ、日々よくなりつつあるので、絶対離れない』と言ふや、声は『お前が俺の言ふ事を聞かなければ斯うしてやる』といひ喉を締めつけたので、その苦しさで目が醒めた』との事である。然しそれだけなら普通の夢であるが、茲に驚くべき事がある。それは首を締めた、其の爪の痕がありあり皮膚に着いてをり、紅く腫れ上り痛むのである。夢といふ霊的作用が現実的に障碍を与ふるといふ事は、想像も着かない不思議な事である。

次に廿歳位の某家の令嬢から朝早く電話で招ばれた。早速行ってみると、矢張り夢の話である。その夢とは『半年位前に死んだ知合の青年が、突然ピストルを妾の心臓目がけて打ったので、その痛さで眼が醒めたが、眼が醒めるや全身が痙れ、歩行が出来ず、漸く這って便所へ行った。』との事である。早速治療に取掛ると『心臓部に出血してゐるやうな気がするから、診て呉れ』といふ。私は『そんな事は全然無い』と言った。又『心臓に弾が入ってゐるやうな気がして痛いから抜いて呉れ』といふので、私は指の先で霊的につまむやうにして取出した処、心臓の苦痛は去り、全身に多少の痙れが残る位になったが、夕方頃平常通りになった。此令嬢はその晩私の家で本治療の座談会があり、自己の体験を語る予定であったので、それを妨害すべく、邪霊が夢の中で加害したのである。

相当地位ある某婦人、熱心な本医術礼讃者であったが、当時某国務大臣の夫人及び、医博某氏を伴ひ、私に再会すべく約してあった所、其夕病気ではなくて酷い苦痛が起ったので、既に受講済みの女中に治療をさせた処廿分位で治癒した。其際傍らに居た十歳になる令嬢が、母親の身体から、人頭大の黒色円形のものが抜け出るのが見えた。「アッお母さんの身体から黒い玉が出た」といふや否や、夫人の苦痛はケロリと去ったのである。私は此話を聴いて、今晩の同伴者は有力者であるから邪神が妨害したのである事を語ったのである。

(天国の福音 昭和二十二年二月五日)