恋愛とは何ぞや

男女間に於ける恋愛なるものは、その原因全く霊作用である事を私は世の青年男女に告げたいのである。それに就て二つの例を挙げてみよう。

私は実業に従事してゐた頃、私の事務所で傭ってゐた廿歳位の女子美術学校の生徒があった。私の営業が美術品で、その図案の仕事をさしてあった。名はＴといふ。或日Ｔの学友である一人の美しい十八九のＵといふ女性が訪ねて来た。Ｔが執務中なので応接室に待たしておいた。私は何気なくそのＵなる女を見た時、あまりにも沈みきってゐるのに何かしら不安な気持がした。私は凝乎としてゐられないのでソットＴの部屋へ行き、Ｕに就て質ねた。最初はなかなか本当の事を言はなかったが、私が根強く訊くので、次の如き真相を語った。それは斯うである。Ｔは彼女と相当前から同性愛に陥ってゐた処、最近Ｔの母親に知れ、厳しく戒められ、Ｕとの関係を打切るか学校を退学するかといふ所まで押迫って来た。二人は終に相談の結果、今宵を期して情死しようとしたのである。私は驚くと共に、兎も角Ｔを別室へ呼び霊査をした処、憑霊が口を切った。それは家鴨の霊で、その告白によれば数ケ月前にＴに憑依した事、Ｕには鴬の霊が憑依してをり、その鴬が愛らしくて堪らないといふ－－その為である事が解った。私は此家鴨の霊を叱責戒め、終に離脱させた。其結果Ｔは目の覚めたる如くＵを愛する心が消え、単なる友人以上には出でない事になった。然しそれまでには数回の霊治療を行った事は勿論である。私は斯事によって恋愛関係は霊作用であると共に、一方だけの解決で可い事を知った。

今一つの例として斯ういふ事があった。某大学生と、談偶々霊の有無に就て論じた。彼は自分を霊査してくれ、といふので、私は快諾し早速霊査に取掛った。間もなく彼は無我に陥った。之は憑霊が浮いた為である。私は『あなたは誰方です』と訊いた。憑霊『妾は浅草公園の○○といふ矢場の傭女で○○といふものですが、此○○さんは妾　は好きですきでならないので、来て貰ひたいと思ってもなかなか来てくれないから、憑いたのです。どうか妾の所へ来るやうに言ふて戴きたい』と言ふので、私は　承知したので、霊は喜んで離脱した。それと同時に覚醒した彼はキョトンと目を瞠　ってゐる。私は彼に向って、『○○の○○といふ女を知ってゐるか』と訊くと、彼　は喫驚して、『先生どうしてその女を御存じですか』といふ。私は『タッタ今、君から聞いた』といふと、彼は驚いて『無我の裡に、飛んでもない事を喋舌った』と大笑ひした事があった。之は勿論生霊の憑依である。

（天国の福音　昭和二十二年二月五日）