肺結核

医学上、結核は病菌の感染に因るとされてゐるが、実際は曩に説いた如く誤れる医療の為と、今茲に説く処の病霊に因るといふ此二つが真の原因である。

先づ一家庭内に於て子女の一人が結核に罹って死亡する。と間もなくその兄弟姉妹の誰かが結核に罹り復死亡するといふ具合に、次々罹病し死亡する。又夫婦の一方が結核の為死亡すると、暫くして他の一方が罹病する。此事実を見る時、全く感染としか思へないのである。然かもそれを裏書するかのやうに彼のコッホ博士が結核菌を発見し、感染といふ理論を立てたのであるから、それを一般が信奉するに到ったのも無理からぬ事である。

然るに右の学説は一大誤謬である事を私は指摘するのである。然らば真の病原は如何といふに、先づ結核によって死亡した霊が霊界に往き霊界生活に入るや、孤独に堪え難い為生前親しんでゐた兄弟、姉妹、友人、夫、妻等を自分の方へ引寄せようとする－その為の憑依である。勿論霊界人となっても病気は持続してゐるから、憑依の場合結核症状となるのは当然で全く恐るべき事である。そうして憑依の場合、人間が元気旺盛(ｵｳｾｲ)であれば憑依し難いのでその時期を待ってゐる。偶々感冒や心身過労等によって衰弱する場合忽ち憑依するのである。此過程を医学に於ては、過労を結核の原因と誤ったのである。此例として次の事実は洵に適切なものである。

先年私の妻は突然発熱、咳嗽、血痰等の肺患三期程度の症状を起した。早速私は治療したが頗る効果が薄い。二三日経ても症状は一進一退である。そこでこれは霊関係ではないかと惟(ｵﾓ)ったので、憑依霊の有無を査べてみた処、果せる哉そうであった。その憑依霊といふのは一年程前死んだ、私が扱った鈴木某といふ青年の結核患者であるが、その青年は父親と二人暮しで、長い間病気の為財物を費ひ果し赤貧洗ふが如くであったから、死後の追善供養など殆んど行はなかった。従而霊は霊界に於て孤独不遇である為、私によって改めて祀って貰ひたい希望で、私の妻に憑依したといふ事が分った。これは妻の口を通じて途切れとぎれに語ったのである。勿論表情も言語も鈴木に間違ひはない。私は『それでは明晩祀ってやるから、この肉体から速かに離脱せよ』と言った処、彼は喜んで厚く礼を言ひ離脱するや妻はケロリとなし、何等平常と異らない状態となったので、私もあまりはっきりした現象に驚いたのである。右の霊は今でも私の家に祀ってある。

之は或花柳界の中年の婦人で、長い間咳嗽に苦しみ、結核的症状に困ってゐた。私は招かれて早速患者に対した処、憑霊らしいので霊査法を行った。果せるかな、突然其場に打ち倒れ、手足を縮めた姿は動物そのままである。そこで私は査問を開始した処果して狐霊の憑依であった。狐霊の語った要領は次の如くである。即ち『自分は伏見の熊鷹稲荷の眷族で、憑依の目的は遊んで楽をしながら、美食をしたいからだ』と曰ふのである。私は『この婦人より以前に誰かに憑いてゐたらう。』といふと、彼は花柳界専門と見えて、『或芸妓に憑いてゐた。医師は肋膜炎といひ、相当長期間病んで死んだ。』との事である。私は狐霊の悪業を咎め『速かに改心して去れ』と言ふや狐霊は三拝九拝して離脱した。患者は夢から醒めたやうで、病気は拭ふが如く治癒したのである。而も狐霊の喋舌った間『全然無我で知らなかった。』といふので、其由を悉しく話した処大いに驚いたのである。其時私は熟々思った。万物の霊長などと威張ってゐる人間が、狐霊などに自由に翻弄され、病苦に悩み、終に生命まで失ふに至っては人間の価値何れにありやと言ひたいのである。

次は矢張り私の妻が突然胃痙攣を起した。胃部の激痛でノタ打廻るのである。早速私は胃部に向って治療を加へた処、痛みは緩和されたが全く去らない。然るに痛みの個所は一寸位の円形で、漸次上方へ向って進行しつつ咽喉部辺に来たと思ふや、妻は『モウ駄目だ。』と叫んだ。そこで私は『之は憑霊だな。』と想ったので『お前は誰だ？』と訊くと、憑霊は言はんとしたが口が切れない。仍(ｿｺ)で私は『三月程以前に脳病で死んだ○○の霊ではないか。』と気が付いたから訊いた処『そうだ』といふので、それから種々の手段で聞質(ｷｷﾀﾀﾞ)した結果、憑霊の目的は、私が其霊の生前の悪い点を人に語った事が数回に及んだので、憑霊は『是非それをやめて呉れ』と言ふのである。私は謝罪し今後を誓約したので、霊は喜んで感謝し去った。去るや否や忽ち平常通りとなったのである。そうして昔から死人の悪口を言ふなと言ふが全くその通りである。

以上の如き実例を体験する時、病気と霊とは如何に密接なる関係があるかといふ事を信じない訳にはゆかないのである。

（天国の福音　昭和二十二年二月五日）