胃癌

胃癌であるが、之には擬似と真症とあるが、実際上擬似の方がズット多いものである。そうして真症の胃癌は霊的であり、宗教的になるから、茲では擬似胃癌のみに就て説明するが、勿論之は薬毒が原因で、前述の如く一旦背部に固結し、胃に還元した際、医療は排泄を止める結果再固結する。この固結は、胃の外部に溜結するものと、胃の潰瘍又は胃の極微小の腫物等による出血の溜結等が大部分である。之は普通の固結よりも悪性である。何故なれば毒素に変化したものが、再び固まるからで、之が即ち癌である。然し之は薬の性質にもよるので、どの薬もそうであるとは言へない。之も放任しておいても長くは掛るが、必ず治るものである。また、癌の場合肉食多量の人は、肉の毒も加はって経過も不良であり、肉食人種に胃癌の多いのも其為であるから、之を治すには肉食も廃め、菜食を主にすればいい。

癌という病気は余程前から世界中で研究してゐるが、原因はどうしても判らない。それで現在は、癌を治療する研究ではなく、癌を発生させる研究をしてゐる実状でありますから、先づ治療法発見迄には、今後何十年或は何百年かかるか判らないのであります。然るに、吾々の方では現在完全に治癒する事が出来るのであります。茲で其癌の原因と発生の経路をお話致します。

元来、癌なるものは、青年期には発生しない。四十歳以上でなければおこらないといふ事実でありますが、之は如何いう訳か。此点から解決されなければならないのであります。それは、人体内にある毒素が、自然浄化作用によって常に何れかに集溜しよふとしてゐる。然るに、集溜作用は運動等に因る神経活動の部に限るので、青年期には全身的活動旺盛の為、四肢五体に分散するのであります。然るに、老年期に近づくに従ひ運動不足になる結果、毒素は一部分に集溜しよふとします。即ち、運動不足者は、肺、心臓は余り活動しないから、どうしても、胃の部に集溜するのであります。そうしてその毒素なるものは水膿でありますから、それは時日の経過によって固結してゆき、進んで化膿性になります。此化膿した一種の内部腫物は、胃の外壁から内壁へと蝕入してゆく。之が胃癌になる迄の経路であります。

診査の場合、胃部を圧して痛い塊のあるのは、先づ「癌の卵」と思へばいいので、普通、心窩部から臍迄の間の中央線が主で、次が其両側であります。然乍ら、胃部に滞溜した水膿も、其人が浄化力旺盛であれば、自然下痢などによって排泄されるのであります。近代人は、少しでも不快だと直ちに薬を服む。薬剤は浄化力を弱め、特に胃薬が胃を衰弱させるから、胃の抵抗力を減ずる結果、排泄されないで、終に化膿する迄になるのであります。化膿が進めば、胃の一部に穿孔される事になる。そうなると胃の活動は殆んど停止され、又その孔からの排膿作用も加はって、旺んに嘔吐をするのであります。

然し、癌は身体が衰弱してさへゐなければ必ず治るのであります。何となれば、胃は仮に化膿しても浄化すれば元の様になる性質のものであります。胃癌の最初の徴候は、胃痛又は重圧感であります。嘔吐が加はるのは、相当進んでからであります。胃癌の初期ですと、本療法で一週間乃至二週間で全治するのであります。

次に、最も注意しなくてはならないのは末期のものです。之は治療する場合に、非常に危険があります。それは、癌を溶解するのに急激ですと、内出血するから生命に係はるのであります。故に末期の癌は極めて徐々に治療しなければならないのであります。私が以前扱った患者で、腸の一寸位上の方に、護謨毬(ゴムマリ)位の癌があって、治療二、三回でずっと萎びたので喜んでゐると、間もなく死んだのであります。それは、急に癌が溶けた為、内出血したので、之は私の無経験による失敗でありました。そういふのは、極く軽く触れるか触れない位にしてやらなくてはならないのであります。

胃癌によっては、腸又は肝臓部へ移行する場合もありますが、之は最も悪質であります。普通の進んだ症状に、コーヒーのやうなものを沢山吐瀉する事がある。あれはよく出血といひますが、私には、そうは思へないのであります。あの吐瀉物は、煙草かコーヒーのやうな色で血の色ではない。そして之を随分吐きますから、血液なら生命を保てる訳がないと思ふのであります。之は、沢山飲んだ薬剤の化学的変化した物と思ふのであります。勿論此中に幾分血液は混っておりませうが、全体としては他の物質と思ふのであります。

胃癌(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)
胃癌(医学試稿 昭和十四年)