胃潰瘍は全く薬剤と飲酒が原因で、特に薬剤の方が悪性である。何しろ胃薬には消化剤として必ず重曹が入ってをり、重曹は食物を柔かにすると共に、胃壁までも軟かにブヨブヨにして了ふので、その為粘膜に極微な穴が穿き、其処から絶へず血液が浸出する場合と、固形物が触れ亀裂を生じ、出血する場合との両方がある。出血がなくとも胃潰瘍といはれる事があるが、出血が無ければ潰瘍にはなってゐない。又出血にも二通りあって、一は少しづつ胃底に溜り、黒色の粒となって、糞便に混って出る場合と、液体となって嘔吐で出る場合とがある。嘔吐は珈琲色の液で、其中に点々と血粒を見るが、珈琲色は血液が古くなったものである。而も驚く程多量に出て洗面器一杯位毎日吐く人もある。然し斯うなっても割合治りいいもので、其際の鮮血は新しい血液であるから、衰弱も相当するが、心配する程の事はない。此病気も服薬を廃めて、血の出る間だけ流動食にし、血が減るに従ひ粥から普通食に移るやうにすれば必ず治るのである。
茲で注意すべきは、潰瘍の場合流動食、安静、止血剤等で一時固めるので、此固りが癌に見られ易く、斯うなった人は胃の周囲に薬毒が充満してをり、之が濁血、膿、ヌラ等になって、絶えず胃に還元し嘔吐するのである。勿論胃の容積も減るから食欲不振となり、衰弱斃れるのが殆んどである。
然るに、此胃潰瘍を薬で治そうとするが、それは不可能であります、何となれば言ふ迄もなく、薬が原因の病気であるからであります。胃潰瘍は、薬をやめて痛みと出血のある内は流動食ばかり摂らせ、出血が止まばれお粥のやうな物を食はせ、そして段々普通食にすればいいので、衰弱さへ甚しくなければ必ず治癒するのであります。日数は軽症で一ケ月位、重症で三ケ月位であります。
胃潰瘍(岡田先生療病術講義録 昭和十一年七月)
胃潰瘍(医学試稿 昭和十四年)