先づ今日最も恐れられてゐる病気としては中風であらうから、それを最初に説く事とする。今日、若い者は結核、老人は中風といふやうに、相場が決ってゐるが、全くその通りで、誰しも老年になるに従って、最も関心を持つものは中風であらう。中風は勿論脳溢血からであるが、此病も医学では全然判ってゐないばかりか、判ってもどうする事も出来ないのであるから厄介である。
先づ脳溢血からかいてみるが、脳溢血の原因は、頸の固結であって、特に左右何れかの延髄部に長年月を経て毒血が固まるのである。従って脳溢血の素質を知るのは雑作もない。右の部を指で探れば固結の有無が判る。それは右か左かどちらかが、必ず大きく隆起してをり、押すと軽い痛みがある。処がそこに一度浄化作用が発るや、固結は溶解され、血管を破って頭脳内に溢血するのである。溢血するや忽ち脳を通過して、反対側の方へ流下し、手及び足の先にまで下降し、速かに固まって了ひ、半身不随即ち手も足もブラブラとなって了うのである。重いのは腕も手も引っ張られるやうになり、内側へ肱は曲り、指迄曲ったままで容易に動かなくなる。そうして拇指が一番強く曲り、四本の指で拇指を押へる形になる。処が面白い事には、足の方は反対に曲らないで、伸びたまま足首などダラリとなって了う。それだけならいいが、重症になると舌が吊って、呂律(ロレツ)が廻らなくなり、頭もボンヤリして痴呆症同様となり、目までドロンとして、悪い方の側の眼力は弱化し、見へなくなる者さへあるといふのが主なる症状で、全く生ける屍となるのである。
処で、医学の最も誤ってゐる点は発病するや何よりも急いで頭脳を氷冷するが、之が最も悪いのである。医学では之によって、溢血の原因である血管を、速く収縮させやうとするのであるが、之が大変な間違ひで、本来溢血は毒血が出るだけ出れば忽ち止血するもので、そうなるには数分間位である。従って止血させる必要などないばかりか、反って氷冷の為、溢血後まだ残留してゐる頭脳内の毒血を、より固めて了う事になるから、頭脳内機能の活動は停止される以上、より痴呆症的になるのである。それを知らない医療は、氷冷を何日も続けるのであるから、其結果はどうなるかといふと、頭脳を冷し過ぎる為、凍結状態となって了うのである。考へても見るがいい。人体中最も重要な機能を氷結させるとしたら生きてゐる事は到底出来ないに決ってゐる。此為生命を失ふ者の数は実に多いのである。全く角を矯めて牛を殺すの類ひで、之こそ病気の為の死ではなく、病気を治す為の死であるので、何と恐るべき迷蒙ではなからうか。之は私の長い間の多数の経験によっても明かな事実であって、脳溢血だけで死ぬ者は滅多にないのである。
茲で脳溢血に附随する種々な点をかいてみるが、医学ではよく転ぶと脳溢血が起り易いとされてゐるが、之は逆であって、脳溢血が発るから転ぶのである。つまり転ぶのが先ではなく、脳溢血が先なのである。よく転んだり、梯子段から落ちたりするのは溢血の為の眩暈である。そうして最初の脳溢血が幸ひにも、一時小康を得て歩けるやうになっても、医師は転ぶのを非常に警戒するのは、右の理を知らないからである。又医学に於ては頭重や一部の麻痺、眼底出血、耳鳴等があると溢血の前徴として予防法を行ふが、右の症状は医学のいふ通りであるが、其予防法は滑稽である。それは身体を弱らせやうとし、減食、運動制限等を行はせるが、之は弱らして浄化を発さないやうにする手段である。又再発を予防する手段も同様であるが、之等も発病を少し延ばすだけで、何れは必ず発病もするし再発も免れないのである。又近来瀉血療法といって、発病直後にそれを行ふのを可としてゐるが、之も見当違ひで、最早溢血の毒血はそれぞれの局所に固まってゐるのであるから、瀉血は何等関係ない処から出血させるので、其為貧血して、大抵は数分後死ぬので、此例は近頃よく聞くのである。
今一つ注意したい事は、高血圧が脳溢血の原因とよく言はれるが、之も甚だしい錯誤で間接には多少の関係はあるが、直接には全然ないのである。その訳を実地に就てかいてみるが、以前私が扱った患者に、六十才位で、当時講談社の筆耕書を三十年も続けてゐたといふ人があった。此人の言うのは、自分は六年前血圧を計った処、何と三百あったので、医者も自分も驚いたが、血圧計の極点が三百であるから、実はもっとあるのかも知れないと思った位である。その為医師から充分安静にせよと言はれたが、自分は勤めをやめると飯が喰へないし、自覚症状もないから、毎日此通り休まず勤めてゐるが、別に変った事はない、といふので私も驚いたが、よく見ると左右特に右側が酷く、顎(アゴ)の下に鶏卵大に盛上ってゐるゴリゴリがあったので、ハハァー之だなと思った。といふのは此筋は腕へ繋がってゐるので、血圧計に表はれた訳であるが、本当の脳溢血の原因である固結は、最初にかいた如く、延髄部の毒血であるから右は見当違ひである。
処が中風といっても、斯ういふ別な症状もあるから知っておくべきである。それは左右何れかの頸部淋巴腺に固結がある場合、之が浄化によって溶解するや、頭脳の方とは反対に其側の下方へ流下し、中風と同様の症状となるのであるが、之は脳には関係のない事と、割合軽症な為、医師も首を捻るが、之も医療では治らないと共に、逆療法を行ふ結果、反って悪化し、先づ癈人か死かは免れない事になる。此症状を吾々の方では逆中風と言ってゐる。
〔浄霊箇所〕
中風-脳天、後頭部、延髄、頸の横側、肩、腎臓、患部
逆中風-耳の後下方の首筋、肩、腕の附根、腎臓、患部
(文明の創造 昭和二十七年)