ⅩⅠ.薬毒の種々相

1.洋薬と漢薬
そうして面白い事には洋薬による苦痛は鋭い痛み、痒み、高熱、麻痺凡て強烈であるが、漢薬の苦痛は鈍痛、重だるさ、微熱等で緩徐的である。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

2.下 剤
疫痢に対するひまし油とか、便秘に用いるカスカラ錠とか、其他色々な新しい薬もあるが、成程一時は効くが結局は悪くなる。下剤も糞便処理の機能を弱らせるから、一層便秘することになる。又下剤を服む、便秘するというようにイタチゴッコになり、遂に慢性便秘症となるのである。而も僅かずつでも其薬毒が溜まる以上、他の新しい病原となるが、此為の病気は腎臓が多い。(中略)茲で浣腸についても注意したいが、之も非常に悪い。ヤハリ之も下剤と同様、腸の活動を鈍らせるからである。考えてもみるがいい。糞便という汚物が溜まれば、自然に肛門から出るように出来ている。それだのに外部から誘導して出すなどは、何たる反自然的行為であろうか、考える迄もなく駄目に決まっている。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

3.鎮痛剤
先ず頭痛に用いる鎮痛剤など、一時は一寸効果を見せるが、遂には癖になって、不知不識の裡に其余毒が溜まり、種々な病原となる。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

4.点眼薬
又点眼薬は最も不可で、目星などでも固めて了うから、反って治り難くなる。又世人は知らないが、点眼薬はトラホームの原因ともなるから注意すべきである。之は点眼薬にもよるが、事実は眼瞼の粘膜へ薬毒が滲透し、年月を経て発疹となって出ようとするからである。又悲しくもないのに常に涙の出る人は、点眼薬が時を経て涙に変化したものであるから、出るだけ出れば自然に治って了う。処が医学は涙嚢の故障などというが、検討違いも甚だしい。又目脂は前頭部の毒素又は眼の奥の浄化によって排泄されるものであるから非常にいいので、何よりも如何なる眼病でも目脂が出るようになれば必ず治るのである。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

5.鼻 薬
鼻薬であるが、鼻薬の中、特に恐るべきはコカイン中毒である。よくコカインを吸う癖の人があるが、一時爽快なので止められなくなり、長い間に脳を冒して、夭折する人も少なくないが、特に芸能人に多いようである。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

6.含嗽薬
次に含嗽薬であるが、之は極希薄な毒ではあるが、始終用いていると、口内の粘膜に滲透し、毒素となって排泄する時、粘膜が荒れたり、加答児を起こしたり、舌がザラザラしたり、小さな腫物など出来たりするから廃めた方がいい。特に咽喉を使う芸人には最も悪い。又一般水薬に就ても同じ事が言える。長い間に ヤハリ粘膜から滲透した薬毒は右と同様になるが、薬が強い為悪性である。而も意外な事には舌癌も之が原因である。
(文明の創造 「薬毒種々相」)

7.歯 磨
又薬入り歯磨きなども、歯を弱める事甚だしいのである。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

8.塗布薬
次は塗布薬であるが、之も中々馬鹿にはならない。塗布薬の毒素が皮膚から滲透して、種々の病原となる事がよくある。以前斯ういう患者があった。最初身体の一部に湿疹が出来た処、医師は悪性として強い塗布薬を塗ったので、段々拡がり、二、三年の内には全身に及んで了った。(中略)又斯ういう面白いのがあった。此患者は肩や背中が凝るので、有名な或る膏薬を始終貼っていた処、長年に及んだので、膏薬の跡が背中一面幾何学的模様のようになって了い、いくら洗っても落ちないという事であった。それは膏薬の薬毒が皮膚から滲透しして、染めたようになって了ったので、而も絶えず相当痛みがあるので、私も随分骨折ったが、余程強い毒と見えて、一年位で大体治ったが、高が膏薬などと思うが、決して馬鹿にはならない事を知ったのである。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

9.仁 丹
今一つ全然世人の気のつかない事がある。それは有名な仁丹で、此中毒も相当なもので、之は幾人もの例で知った事だが、仁丹常用者は消化機能が弱り、顔色も悪く病気に罹り易くなる。今日問題となっている麻薬中毒の軽いようなものである。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

10.サルバルサン
茲で、薬毒中の王者ともいうべきものを一つかいてみるが、それは彼の駆黴剤としての六〇六号、一名サルバルサンである。之は砒素剤が原料となっている位で、耳掻き一杯で致死量となる程の劇毒であるから、浄化停止の力も強いので、梅毒の発疹などにはよく効く訳である。勿論浄化によって皮膚へ押し出された発疹であるから、一度サルバルサンを注射するや、症状は忽ち引っ込むという訳で、一時は綺麗になるが根本的ではない。之は医学でもサルバルサンは一時的で、他の駆黴療法を併せ行はねばならないとしている通りである。之に付いて私は大発見をした。というのはサルバルサンの薬毒は頭脳に上がり易く、上がると意外にも精神病になる事が多いのである。すると医診は梅毒が脳に上がったと思うが、何ぞ知らん、実際はサルバルサンが脳を犯したのである。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

11.予防注射、消毒薬
茲で予防注射による弊害をかいてみるが、先ず予防注射による薬毒の悪影響が、最も明らかに表れるのは、膝から下に小さな腫物が出来る事である。之も放任しておけば、或程度腫れて自然に穴が穿き膿化した注射薬が出て治るのであるが、それを知らない医学は、塗布薬を用いたり、切開したりするので長引く事になる。而も注射によっては、脱疽やひょう疽の原因ともなり、指を切られる事さえある。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)

茲で、消毒薬に就いて説明してみるが、之は薬毒中最も恐るべきものである。元来消毒薬とは殺菌力が非常に強いので、中毒を起こし易く、而も手術の場合、直接筋肉に滲透するから猶更影響も大きい訳である。故に之が為種々の病原となるので、此理と実際を、医家は照らし合わしてみて貰いたいのである。(文明の創造 「薬毒の種々相」)

そうして、注射薬にしろ消毒薬にしろ、目方の重い軽いがあって、重い程下降し、最も重いのは膝から下、足の裏迄垂れて来て固まる。そうなると足の裏が痛くて地につけないで歩行困難となる。又薬によっては下降して膝から下に溜まり、痺れるので脚気とよく間違えられる。其他神経痛、リュウマチスの原因も薬毒であるから、私は何よりも先ず薬毒の恐るべき事を、専門家に自覚させたいので、之だけでも人類に与える福祉は、蓋し計り知れないものがあろう。
(文明の創造 「薬毒の種々相」)