近頃医学の進歩によって、人間の寿命が延びたといってゐるが、成程数字から見たらば確かにそれに違ひないが、それは表面に現はれた現象であって、只漫然とそれを謳歌する事は間違ってゐる。何となれば確かに寿命は延びたが、病人の数は少しも減ってゐないのは統計が示してゐると医学も報じてゐる。
之によってみても人間が健康になって寿命が延びたのなら、どんなに医学の進歩として礼讃してもいいが、そうでないとしたら漫然と楽観は出来ない。処が此様な矛盾した理由は医学で説明すべきだが、その理由が分らないとみえて、何等説明を聞かないのは困った話である。又世の中の人もその疑問を知りたいと思ふ人もないとみえて、新聞などにも出て居そうなものだが、まだ見ないのは不可解と思ふ。
察するに医学に迷信してゐる結果、少しは変だと思ふ事があっても、其処までは考えないであらう。然しそれも無理はない。何故なれば医学の方で一般に納得がゆくやう詳しく説明すべきだが、それが不可能である為、心では思ってゐるだらうが、堂々と説明が出来ないのである。之だけにみても私が常に医学の迷蒙を歎いてゐるのにみても分るであらう。そこで私は之を徹底的に説明し、医学者に諭えると共に、一般人にも理解の出来るやうかいてみよう。
医療とは人間体内に保有してゐる毒素の排除の苦痛が病気であるといふ事であり、その苦痛を病気と誤ってゐる医学は、薬といふ毒を服まして排毒を停める。それだけ苦痛が緩和されるので治ると間違ひ、無暗に薬毒を服ませる。故に毒の強い程効く訳である。
処が薬でも同じものを服んでゐると段々効かなくなる。之は人体の方で抗毒素が段々出来るからで、之は近来流行の麻薬と同じ理屈である。又何病でも同じ薬を服んでゐると段々効かなくなり、変えると一時効くという事は、長い病気の人や、医師もよく知ってゐるであらう。勿論効くといふ事は薬が替るから効くといふのではなく、毒が替るから効くのである。つまり毒で病気を抑へる、その毒が替るからである。
処が近頃になって薬剤界の方でも抗性物質を使ふとよく効くといふ事を発見したといはれてゐる。之が近来続出する新薬である。では何故効くかといふと、今迄人間が使ってゐた薬の性質とは一変した訳であるから、それで一時効くのである。併し之も年限が経てば元の木阿彌となるに決ってゐるから、寿命の延びた自慢もお終ひにならう。
之によって考えれば、新薬で病気が治ったのではない。抑えてゐる期間が増えた訳である。処が困った事には病気が治り健康になったのではない、死ぬのが延びただけであるから、統計上病人が減らないのはその理由である。その結果死にもせず、健康にもならないといふ、言はば中途半端のブラブラ人間や老人が増えるので、国民の元気は衰へ、生ける屍ではなく、健康である病人が増える事になる。此見本が英仏であるから、英仏の国力の衰え方をみても分るであらう。
此事の最も著しいのが結核である。近年結核死亡率が減ったといひ乍ら、患者は増へるばかりで、病院が足りない、ベットが足りないで悲鳴を上げてゐる。処で之に拍車をかけるのが結核にはお決りの絶対安静である。従って此分でゆくと、何年も寝ながら天井を見つめてゐる人間がサゾ増えるであらう。それも若い人間が多いのだから、国家経済からいったら大きなマイナスであらう。
日本が経済上不如意なのも、此辺に原因があるのであらう。では此問題をどうすれば、最もいい解決が出来るかといふと、それを之からかいてみよう。