科学篇 胃病

茲で肺臓の解説をするのが順序であるが、之は最初に充分かいたから略して、胃に移る事にしたのである。病気の原因が殆んど薬毒である事は、今迄説いた通りであるが、特に胃に関した病気程それが顕著であって、悉く薬で作られるといってもいいのである。それを今詳しくかいてみるが、誰しも偶々食べすぎとか、食靠(モタ)れとか、胸焼がする事がよくある。すると放っておけば治るものを、何でも薬さへ服めばいいと思ひ、早速胃の薬を服んで了ふ。然し一時はよくなるから、それで済んだと思ってゐると、何ぞ知らん此一服の薬が、将来命取りの因となる事さへあるのだから問題である。つまり一服の薬が病の種を蒔く訳である。といふのは暫く経つと、再び胃の具合が必ず悪くなるもので、そこで又薬を服むといふ具合に、いつしかそれが癖になって了ふ。此点麻薬中毒と同様であって、終ひには薬がなくてはおられない事になるが、斯うなるともう駄目だ。立派な胃薬中毒患者である。

そこで医者に診て貰ふと先づ胃弱、消化不良、胃加答児、胃酸過多症などと診断され、斯ういふものを食ってはいけないとか、此薬を服まなければいけない。斯ういふ養生をしなさいなどと言はれるので、其通り実行するが一時は一寸よいようでも、決して治りはしないばかりか、寧ろ悪化の傾向さへ辿る事になる。痛み、嘔気、胸焼、食欲減退など種々の症状が次々発るので、仕方がないから薬を服む、と一時よくなるので、薬で治るものと思ひ込み、益々薬が離せなくなる。処が初め効いた薬が段々効かなくなるもので、それからそれへと種々な薬を変へるが、変へた時だけは一寸良いので、それに頼ってゐると又駄目になって了ふといふ訳で、言はば胃薬中毒患者になるのである。そんな事をしてゐる内、遂々口から血を吐くやうになる。サァー大変と医師に診て貰ふと、之は立派な胃潰瘍で、充分養生しないと取返しのつかない事になりますよ、先づ固形物を食べないで、絶対流動食にして安静にする事等々、万事重症患者扱ひにされて了ふ。

右は、最初からのありふれた経路をかいたのであるが、実は斯ういふ人は今日尠くないのである。そこで初めからの事をよく考へてみると、初め胃の具合が悪かった時、放ってをけば直に治って了ったものを、何しろ医学迷信に陥ってゐる現代人は、薬を服まないと治らない、放っておくと段々悪くなると心配し、一刻も早く医師に罹ったり、売薬などを用ひたりする。そんな訳で全く薬によって重症胃病を作り上げて了ふ訳である。何と恐るべくして又愚な話ではないか。処がそれは斯うである。大体胃の薬というものは、勿論消化促進剤であり、消化剤は必ず重曹が土台となってゐる。衆知の如く重曹は物を柔かくする力があるので、煮物などによく使はれるが其理屈で常住消化薬を服むとすると、食物ばかりではない、胃壁をも段々柔かにして了ふ。そうなった時偶々固形物などを食ふと、ブヨブヨになった胃壁の粘膜に触れるから疵がつく、其疵から血液が漏れるのである。吐血の際鮮血色は新しい血で、破れた局所が大きい程多量に流出するのである。処が人により珈琲色の液体や、それに黒い粒が見える事もあるが、之は古くなって変色した血で、粒とは血の固りである。又よく大便に黒い血の固りが交る事があるが、之は古い血で疵口から出た血液が胃底に溜り、固まったものが溶けて出たものである。然し此珈琲色の古血を吐く場合、非常に量も多いもので、一度に一升から二升位、毎日のやうに吐く患者さへあるが斯うなっても吾々の方では割合治りいいものとしてゐる。然し此病気は医学の方では仲々治り難いとされてゐるが、全く原因が薬であってみれば、お医者としたら具合が悪いに違ひない。何しろ薬を廃めなければ治らない病気であるからで、従って此病気は薬を廃めて気長にすれば、必ずと言ひたい程治るもので、其方法は最初血液を少しでも見る内は流動食にし、見えなくなるに従ひ、漸次普通食にすればいいのである。次に他の胃に関した病をかいてみよう。

最も多くあるのは胃アトニー(胃酸過多症)といふ症状で、之は文字通り酸の多い病であるが、酸とは勿論薬の変化したものであるから、薬を廃めれば順調に治るのである。次は胃痛で、此酷いのが胃痙攣である。之は激しい痛みで堪へられない程である。医療はモヒ性薬剤を用ひるが、之は一時的麻痺によって、苦痛を抑へるだけであるから、日ならずして又発る。という訳で癖になり易いもので、此病の原因も勿論薬毒であるが、其経路をかいてみよう。先づ、薬を服むと一旦胃に入るや、曩に述べた如く、薬は処理されないので、胃に停滞する。人間は仰臥するから薬は胃を滲透して下降し背部に固まる。それが浄化によって溶け胃に還元するが、其時は最早毒素に変化してゐるから、胃はそれを外部へ排泄しやうとする。其刺戟が激痛であるから、胃痙攣の起った場合、何にもしないで一度我慢して、痛いのを通り越して了えば下痢となって毒素は出て了ふので根本的に治るが、毒素が出切る迄には何回も発るが、之は致し方ない。然し其次発った時は、必ず前より軽く済み、次は又軽くなり遂に全治するのである。

次に胃癌であるが、之には擬似と真症とあるが、実際上擬似の方がズット多いものである。そうして真症の胃癌は霊的であり、宗教的になるから、茲では擬似胃癌のみに就て説明するが、勿論之は薬毒が原因で、前述の如く一旦背部に固結し、胃に還元した際、医療は排泄を止める結果再固結する。之は普通の固結よりも悪性である。何故なれば毒素に変化したものが、再び固まるからで、之が即ち癌である。然し之は薬の性質にもよるので、どの薬もそうであるとは言へない。之も放任しておいても長くは掛るが、必ず治るものである。

(文明の創造 昭和二十七年)