阿呆文学 東京は外国の都か

此間阿呆が某劇場の食堂へ行って、給仕女に洋菓子を呉れと言ったら、「アノー・ケーキの事で御座いますか」と聞き返した。是に於て此阿呆も暫らく考へたよ「日本人が日本の都で日本語を使ったら日本人に通用しなかったんで御座る」から--

もう一つは、阿呆は塩煎餅で茶を呑むのが好物なので、銀ブラの序(ツイデ)に探したのじゃ、いくら探してもそういふ家(ウチ)は一軒も見当らないのであった。異国臭い、甘いコーヒーを飲みながら、甘い菓子を喰ふ家ばかりじゃった。どうも日本人が、日本人らしい食物を、日本の都の真中では、食へなくなったのじゃ、成程、時節といふものは、ても扨(サ)ても怖ろしい事で御座る。哩(ワイ)

(東方の光五号 昭和十年四月八日)