然らば、病気の結果である。苦痛の本質は何であるか、それは、病気を治癒すべき、人間自身の工作が、神経を刺激するからである。例えば、発熱とは病気を溶解し、又は殺菌する治癒工作であり、痛みとは病素を排除し又は縮小する工作であり、嘔吐下痢は、毒素を排除する工作であり、咳嗽は気管の浄掃及び汚物（喀痰）の、排除作用である。
斯るが故に、本来から言へば、病気の苦痛は、否苦痛時こそ、病気は治癒されつつあるのであって、苦痛が大なれば大なる程、治病工作は猛烈に進行してゐるのである。然るに西洋医学は、苦痛そのものを、病気の悪化作用と解釈する、之が一大誤謬である、病気治癒の為の浄化作用を悪化作用と誤認する。そうして成立った処の医学である以上、実に根本錯覚の途を歩んでゐる。
之が抑々西洋医学では、病気治癒は不可能であるといふ真因である。此根本的原因を認識せざる限り、如何に研究努力を続けると雖も、労して効なく国家経済上から言っても、絶大なる損失を累(ｶｻﾈ)つつあるのである、医学は如何に進んでも病人が減らないといふ事実は、此事によって充分解釈なし得るであらふ。
然し乍ら、一時的にもせよ、苦痛が緩和さるるといふ事は、医師も患者も治癒さるると思ふのは無理のない事ではあるが、何時しか事実は逆作用に転向して、病気は悪化するのである。其顕著な実例としては、モルヒネや其他の中毒患者である。他の例としては、便通の為の下剤服用が、反って便秘を促進し、健胃剤が 弱者を作り、消化薬が不消化の原因となり、胃薬連続服用の結果が、胃潰瘍を起し睡眠薬が不眠症とならしめ潅腸を重ねる程便秘者とならしむる等、悉く薬剤の逆作用である。
是に依って之を観れば、西洋医療の実際は、病気治癒の妨害的作用となるのである。又医学衛生は、人間をして、恐怖観念を抱かしめ、神経質とならしめ、虚弱者を作る如き結果を齎(ﾓﾀﾗ)す事も往々見受くるのである。医学衛生を重んずる上流家庭の子女及び医師の子女又は看護婦等に比較的虚弱者の多いと言う事実は、此私の説を証拠立ててゐるのである。
然し乍ら、病気の苦痛は、治癒工作である事を知ったとしても、其苦痛を堪え忍ぶ事は出来得ない事であるから、仮令治癒妨害と知っても苦痛軽減を欲するのは真情である。恰度モヒ中毒者が生命を賭して迄も一時的苦痛を免れんとするのと同様である。
此処に於てか、苦痛を緩和しつつ、真に治病の目的を達し得る医術が発見されたとしたら実に人類を救ふべき、真の大医学である。然るに、我観音力治療こそ、此条件に合致する唯一の治療法であって、之によれば完全に万病は治癒されるのである。
西洋医学によって治癒せられたる患者に二種ある、一は薬剤や物理療法によって、或程度まで治癒せられたる如き状態を呈するのであるが、或時日の経過によって再発する症状である。之は薬剤物理の力によって一時的に、病苦を弾圧した訳で、根本的に治癒されたのでないから、再発するのは当然である、此症状は寔に多いのである。
今一つは、完全に治癒さるる場合がある。之は、実に自然治癒であって、人体自身の治病力がそうさせたのである。然し此場合、医療に妨害されるから、長時日を要するのは止むを得ない事である。然し、医療によって、苦痛を緩和されるから、延長さるるも止むを得ないであらふ。
此真相を知らない患者は医療によって治癒されたと思ひ医療に感謝するのであるが滑稽も極まれりと言ふべきである。
私は斯く言ふものの、西洋医学に携はる人士中には、既に或程度の疑問を持った結果、灸治法、漢方医学、自然療法、信仰療法、無薬療法等に研究の歩を転じつつある。賢明なる士の在る事を尠なからず聞知してゐる。之は実に、喜ぶべき傾向であって、斯かる士こそ此私の説を首肯し得るであらふ事を信ずるのである。
（光明世界五号 昭和十一年一月二十五日）