稲荷の意味

日本の各地に祀られてゐる社に稲荷位多いものはあるまい。従而、稲荷の由来を知りおく事も無駄ではあるまい。

太初の時代、人口が漸次増加するに従ひ、主食の増量が必要となったので、天照大御神は五穀生産の担任者として豊受明神に命じ給ひ、全国的に稲種を頒布されたのである。其際、今日と違ひ交通不便の為、豊受明神は狐に命じ給ふたのである。稲荷の文字は稲を荷ぐといふ意味である。一説には稲荷とは言霊学上飯成といって、飯種を成らせるといふが之はあまり首肯出来ない。

以上の意味によって最初農民は狐の労に謝すると共に、豊作を願ふ願望から、稲荷大明神と崇め奉ったのである。よく女神が狐に乗り狐が稲を咬えてゐる稲荷神社の御札は、それを表はしたものである。

処が、時代を経るに従ひ、商売繁昌や種々の祈願の的となり、遂には花柳界の人々までも御利益を与えるようになったのは全く稲荷自体の本分を無視する事になったのである。故に稲荷に対しては豊作以外の祈願はすべきではないので、反って一種の罪を構成する事になるのであるから慎しむべきである。

(光新聞十九号 昭和二十四年七月二十三日)