本教団の事業

本教団は今三つの事業を企画し、その中二つは既に着手しており、一つは計画を進めてゐる。それに就て解説してみよう。

右の二つの中の一つは無肥料栽培による農耕である。無肥料栽培とは読んで字の如く、金肥も人肥も全然使用せず、ただ堆肥のみを以て肥料とするのであるから、如何なる農作者と雖も到底信じ得られないであらうが、事実に於てその成果の素晴しい事は驚異に価する。先づ稲麦の如き主食に於ては従来に比し三割乃至五割の増産は確実であり、野菜の如きは五割乃至十割の増産は易々たるものがある。先づその効果を列記してみれば左の如きものである。

一、肥料代は全然要せざる事
二、凡て量目が増加する事
三、味覚の素晴しい事
四、殆んど虫害を生ぜざる事
五、施肥や消毒薬撒布の労力不要
六、人肥を使用せざるを以て寄生虫伝播の危険なき事

以上の如くであるが、右の中特筆大書すべきは、現在寄生虫特に蛔虫保有者は農村に殊に多く七八十パーセントであるといふに至っては実に寒心に堪えないものがある。之が二三年間生野菜を食しなければ寄生虫病は大体消滅するといふ事は、最近の医学に於て唱えらるるところである。

特に今日日本中に滞在中の米国人は日本産の野菜は絶対口にしないといふ事実にみても、今後外客誘致の関係上大いに考慮の必要があらう。この点に於ても吾等の無肥栽培は如何に国策に合致するかは論議の余地はあるまい。

吾等の言を信じて数年前より無肥栽培によって大なる成果を挙げつつあるものに、中京地方の農村を始め全国各地方に及び漸次増加の傾向にある事実は大いに喜ぶべきであるが、なお一層拡充して日本全国に及ぼさん意気込みを以て実際的成果を世に示すべく、熱海より一里十国峠の口元に十余万坪の地を卜(ボク)し、農耕地を目下開発中である。そうして無肥栽培の理論と方法成績等は雑誌地上天国創刊号に詳細掲載されてゐるから参照されたいのである。

今一つの着手中の事業に、信仰を土台とする結核療養所である。本教浄霊に於る結核治癒率の卓越せる事は現代の驚異であって、忌憚なくいえば現代医療の効果が一とすれば、吾等の効果は十といっても決して過言ではない。而も機械も薬剤も全然不必要であるから経済的利益の点に於ても理想的である。

然し此文を見ただけでは恐らく信ずる事は出来得まい。私は決して大言壮語するのではないが、実をいえば日本の結核問題解決は吾等の手によらなければ絶対不可能である事を断言して憚らないのである。その成果は何れ統計によって社会に発表するつもりである。それに就て所長として某医学博士が快諾、其任に当る事に決定して居り医学的にも科学的方法による治病効果を證明すべき其の手段を目下考究中である。

次に今一つの計画中のものに頗る新機軸なものがある。それは実行さるべくして未だ試みた事のない施設であるが、何かといふと日本美術国際紹介所ともいふべき最も新しい企画であって、言ふ迄もなく今後日本の進むべき国策を考へるに、商工業部面も大いに必要ではあるが、此面は或程度を越える事は不可能である。

現に日本の特産である繊維工業の如きは米英の当事者間に於ても、将来の競争を懸念し、その対策を樹てるべく考慮中であるといふ事を外電は報じてゐる。此様な訳であるから日本の産業も、或程度以上は困難である事を予想して、今から生産過剰の場合の対策を立てておかなければならないのである。

処が右のような心配の更にない無限の将来性ある事業としては、観光事業及び美術工芸品の輸出であらう。

前者は世界的に優れてゐる日本の明媚なる風光を極度にまで利用し、大いに外客誘致の施設方策を執るべきで、道路の改築、ホテルの増築等急を要する事業は多々ある。

次の、美術工芸品の輸出であるが日本人が手工芸に於ては世界にその比を見ない程の優秀なる技術を有ってゐるのは、昔から知られてゐるが残念ながら外人は未だ日本美術を真に理解してゐない。之は朝野共今日迄等閑に附せられてゐた為であるが実は日本人自身の中にも日本美術の理解者は洵に寥々たる有様である。

此点に鑑み吾等は熱海随一ともいふべき最も景勝なる地点を卜し、右の目的に添ふべき企画を目下進めており、三千坪の敷地は已に完成してゐる。それに就ても先づ考えられる事の第一は日本の住宅建築である。近来米国に於ても日本建築の或部分を採入れたるものは漸次増加の傾向にあるそうで、特に著しいのは天井の低い事や椅子の低くなった等もこの表はれである。

然し乍らそういふ実用方面ではなく、美的方面を大いに理解させなければならない。それには先づ日本建築の粋を鏤め、近代感覚を通して表現した構成美を遺憾なく建築に表はす事である。例えば彼地の建築は方法として塗装美を主としてゐるが、日本建築に於ては木や竹其儘の自然の持味や、障子の如き如何にも瀟洒(ショウシャ)にして親しみ深いものや、砂壁の寂(サビ)等も取入れ、その一部に現代の一流所の美術工芸家の作品を網羅し、外客の審美眼に訴えんとするのである。

此点以前の如き外人向きとして迎合を事とし、卑俗見るに堪えざるものであってはならない。飽迄も日本固有の美的要素を充分発揮させたるものを陳列し紹介する事こそ、今後の国策上最も喫緊なる問題である。勿論註文に応じて大いに輸出に努力し、外資獲得の一役を担ふ覚悟である。

以上述べたる如き新企画の三大事業を一着手とし、漸次各面に及ぼさんとするのである。

(光新聞五号 昭和二十四年四月十八日)